2001年 3月17日(土)常盤の海                   
       シラスは一杯釣れた
                                   朝は良かったのだが
慌てる朝
朝の5時、ない、バイクのキーがない。
先っき入れたはずのポケットにない。
茶箪笥、テーブル、棚という棚を探し廻った。
カミさんが、炬燵の中でノビタの慌てぶりを笑っている。
いつもカミさんが忘れ物を探すのを見て、馬鹿にしていたので、やっと仇討ちができたと嬉しがる。
しばらく家中を探し廻った後。
もう一度、防寒着のポケットに手を入れた。
あった!。
防寒着のポケットは2段。
カギがあったのは下段のポケット、無い無いと手を突っ込んだのは上段のポケットだった。

人も魚もいない冬の海
何とかOと待ち合わせた5時半に駐車場に着く。
薄暗い駐車場はガラーンとしていた。
車はほんの数台、1台の車のトランクから荷物を降ろしている人間がいる、Oだ。
堤防を2人で歩いて行くうちに、すっかり夜が明けた。
冷たい北風が絶えず吹いていたが、気温は2度ほど、さほど寒さを感じない。

目的の場所に着くと、ノビタはシラス用に磯1号、5.4メートルの竿をまず出し。
その後に黒鯛用の竿を1本準備、次にチヌパワーと沖アミでコマセを作る。
北風なので南側を攻めることにした。
Oはカレイ竿を1本出し、その後に黒鯛釣りの竿を出す。

  
1度に22匹
シラスがキタ
午前7時、シラス用の竿が、水面に突っ込むほどお辞儀を繰り返している。
キタキタキタ〜♪、竿を持ちソロソロとリールを巻く。
水面からゾロゾロと白い端麗な魚が、七夕のように連結して上がって来た。
数匹は上げる途中で水面に没したが、全部で22匹。
最高の滑り出しだ。
あせりながらシラスを外し、仕掛けを海に戻す。
ところが、入れ食いの期待に反し、この後が続かない。

今度は隣りのOにキタ。
10数匹付いている。
彼は12本針の1段架け、ノビタは10本針の3段架け。
Oに何度も、2段架けにせよと言うのだが、巖として1段架けに固執する。
シラスの方は、この後何度も七夕があったが、その動きは早く、入食いにはならない。
七夕があった後は、30分ほど間があいてしまうのだ。
シラスは置き竿で釣れるので、その間、黒鯛釣りに専念するのだが、こちらは餌泥棒が多く、餌の交換でうんざり。
                                     
コソ泥のコメバル
黒鯛釣りは外道だけ
水深11メートル、3Bの遠投浮子を使っているが、噛み潰し重りが軽いので、仕掛けが底に届くまで相当な時間を要す。
仕掛けが海底に届くと同時に、浮子が3〜4秒水中に沈む、これがコソ泥のアタリだ。
2〜3度浮子が沈むと、浮子は沈まなくなる。
餌がなくなり、コソ泥が消えるのだ。
黒鯛の外道で釣れたのは、コメバル、ウニ、ギンポ。
本命はとうとう姿を見せなかった。
昼過ぎからは、シラスも釣れなくなった。

追憶
ひまである......、いつかお頭は時空間の世界を彷徨していた。
遠い記憶の中に、忘れられない情景がある。
季節は春だった。
そこは、東北の片田舎。
寒い間澄みきっていたほり(小川)が、泥色に濁る頃が、釣りの季節となる。
水温が温むと、魚の動きが活発になり、川が濁るのだ。
隣り村に、泥鰌や小鮒を釣りに行く真っ黒い2人の子供がいた。
しげるとノブだ。
この2人は、真っ白い雪原で小鳥を追い回すため、冬でも真っ黒だった。
要は、年から年中真っ黒なのだ。
まるで常夏の国の子供だった。

  
ウニも釣れる海
雪の消えた田んぼの畦道には、蓬や芹など野草が顔を出し、何処からか堆肥の匂いが流れて来て、それが絶えることなく続く。
鼻は何時の間にか完全に麻痺し、鈍感になっていた。

2人の持ち物は、仕掛けの付いた3メートルほどの竹と、バケツだけ。
ミミズが入っている空缶が、走るたびにバケツの中で転がり、ガラガラとやかましい音をたてる。
目的の場所は川幅が4メートルほど、深さが50センチほど、比較的大きいほりだ。
両岸は、枯れた背の高い雑草や、背の低い木々に覆われ、それがほりに影を作り魚が棲みつく。
残念ながら、そこは隣り村の敵地でもある。
隣り村のガキ大将にみつかったら半殺しに合うかもしれない。
相当の覚悟がいる。
でも釣れる誘惑には勝てない、蜜の味が目の前にあって、眺めるだけ何て出来なかった。

その頃、それぞれの村の遊び場は、それぞれの子供達の縄張りになっていた。
動物が、餌を取る範囲を縄張りにするのと似ている。
他村の者は、よせつけない。
隣り村に遊びに行くことは、招待でなければ侵略である。
”疾きこと風の如く  侵略すること火の如く”でなければ隣り村で遊ぶことは出来ない。
だから子供達のケンカは日常茶飯事であった。
相棒のしげるはおとなしい。
ケンカが始まりそうになると、様子を見ながら一寸した隙に、脱兎の如く逃げてしまう。
それも無類の速さでだ。
頼りないけど、しげるがいないと遊びが成立しないので、いつも一緒だった。

歩いて30分、とうとう敵国に侵入した、人目につかない様に、周囲を伺いながら現場に近ずくと。
いた、敵がいた。
                                   
海のギャング、ギンポ
しげると顔を見合わせ、ジリジリと枯れ草の合間を縫って近ずく。
1人だ、見ると、もりおだった。
体格がよく無口、同じクラスの小学生だ。
ある意味では仲間なので、ほっとした。
彼の前に、ノブと一歩遅れてしげるが姿を現す。
もりおは一瞬驚いたが、”何すさ来だ”と目で咎める。
もりおは数ヶ月前に母親を癌で亡くし、それからは前にもまして無口になった。
この頃、彼の心の傷の大きさ何てまるで分からなかった。

もりおは、大きい体の上からノブを睨み続ける。
ノブも下から睨み返す。
もりおが田んぼに放ってあった物干し竿を、2本持ってきた。
黙って1本をノブに渡す。
無言の挑戦状だ。
物干し竿は直径6〜7センチ、長さ4メートルほど。
体の小さいノブには、蟻が鉛筆を持つ大きさだ。
ケンカの理由は縄張り荒しだが、その場所は以外と広く、5〜6人いても充分釣りのできる広さがあった。
同じクラスの仲間なら、武士は相身たがえではないかと思ったが、もりおの顔は固い。
学校でのつきあいも薄く。
恨も買う覚えはない。
だからもりおの憎悪が分からなかった。
よく分からないまま、彼の憎悪を一手に引き受けてしまったのだ。

釣れない、背中でぼやくO
長い物干し竿は、制御しにくい強烈な破壊力を持つ武器だ。
相手を傷つけてはいけない、でも攻撃に出ないと相手の竿がこちらの体を砕く。
相手の激しさ、怒りにこちらも煽られて行く。
バッシ、バッシと物干し竿がぶつかり合う度に手が痺れた。
ヨロヨロしながら打ち返す。
竿を振るう度に肩で息をし、全身から汗が飛び散った。

この時ほど恐怖にかられたケンカを、後にも先にもしたことは無い。
どれほどやりあったのか、もりおが急に竿を捨てた。
命拾いをした、嬉しかった、瞼が涙で溢れる。
相手に悟られない様に、空を見上げると。
そこには青い空、白い雲があった。
                               
本日釣果シラス130匹
何で急にもりおが物干し竿を捨てたのか、分からない。
決して彼が劣勢になったわけではない、疲れが激しかったのは、むしろノブだったのだ。
もりおはその場を、しげるとノブに譲り立ち去った。
もりおは最後まで一言も口をきかなかった。
感動とは、感じて動くと書く。
鈍感ならば、動かない。
ノブは、彼の孤独な叫びを感じることが出来ず、この後も無関心だった。
小学校も中学校も同じだったが、彼の記憶はこの時の戦いの他は皆無だ。

結果的に奪った形となった場所には、泥鰌や小鮒がおもしろいほどいた。
日が暮れるまで夢中になって釣り続けた。
帰ってから母にどやされたのか、釣果を誉められたのか、さだかではない。

納竿
.....一瞬、右手に冷たさを感じた。
雨だ。
「雨だぞーーー」
Oの背中に呼びかけると、彼が残念そうに振り向いた。
午後2時、風は弱まるも雨が振り出したので納竿にした。

本日の釣果
ノビタは、シラス130匹ほど。
Oがシラス40匹ほど。
シラス外のコメバルや、他の魚は全てリリース。

 
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