石持は何処に?
PM
5:10 乾いた砂丘
生気のない海
日中は潮の動きが鈍いので、夕まずめから夜を狙うことにした。
午後5時過ぎに家を出る。
南風が吹き、気温も上昇し、期待出来ると思ったが、海は鏡のように穏やかで、水も澄んでいた。
石持釣りは、まず南風、2番に少々荒れ模様の海、3番に気温の上昇が基本条件だ。
この2番目の条件が欠けている。
湖のような海
石持釣りの好条件
ノビタが激しく燃えるのは、曇天の空、雨、南風、蒸し暑さ、荒れぎみの海、それらが満たされた時だ。
人が敬遠する海、こんな日に、砂浜に砕ける波の下で石持が乱舞している。
釣りを家族で楽しむとか、生活をエンジョイするとか、余暇を有意義に過ごすとか、それを満たすような絵に描いたような日和では石持は無理だ。
普通の人から見れば気狂い沙汰のような天候、それを避けるような人には石持釣りの醍醐味を、味わうことは出来ない。
緩慢な堤防 黄昏れせまる砂浜
堤防は夏を思わせるような陽に照らされていた。
堤防全体に、6〜7人の釣り人がポツン、ポツンと点在している。
こんな日は内湾より外洋側と思ったが、ノビタが前回釣った場所には、若い人がカニ網を投げている。
外洋をあきらめ、内湾側を攻めることにした。
此所で、たまに会うおじさんがいたので様子を聞くと、朝の8時から来て午前中に3匹、午後から1匹しか釣れなかったようだ。
ともかく竿2本を準備し、南風を正面に受けながら仕掛けを海に投入した。
南風に竿先が震え、鈴がルルルルー、ルルルルー、ルルルルー、と乾いた音を発している。
リリーリンという魚の反応は全く無い。
周囲もシーンとしている。
午後のお昼寝タイム?ではなかった、皆さんの目は真剣に竿先を見つめていた。
ご苦労様です。
夕日と雲の変化
Hurry
Sun Down!
陽はどんどん西の空を橙色に染めながら沈んで行く。
午後6時、先程のおじさんが帰る支度をしていたので声をかけた。
「帰るのですか?」
「今日は打ち止めだ〜、これからやる人は新鮮だから頑張ってよ!」
「家は近いのですか〜?」
「東海だから、すぐそこさ!」
「じゃ同じですね、自分も家まで5分ですよ!」
おじさんは帰って行った。
全然疲れた様子が見えない
むしろ充分楽しんだと言った感じだ。
おぼろ月夜
午後7時過ぎ、陽が沈み周囲が暗くなってからポツリ、ポツリと釣り人が堤防先端の方に消えて行く。
頭上には半月が、おぼろに浮かんでいた。
時の過ぎる程に月は形を失い、雲と淡く同化し霞んで行く。午後8時、風も何時の間にか微風となり、気温も下がってきた。
まだ1度も魚信がない。
石持は何処に行った?
年配の御夫婦が沖側から戻り、隣りに竿を出す。
御主人が話しかけて来た。
「どうですか?」
「全然、魚信がないんです〜!」
おじさん首をかしげながら、
「南風だから絶対石持はいるはずなんだが〜、さっきまで先端にいて、何度か魚信があってやっと2匹、後が続かず、湾奥に逃げたと思って来たんだけど。」
「何処に石持は行ったんですかね〜?」
「砂浜の方にいると思うんだが、あいにくと磯竿しか持っ来てないし...」
砂浜の方に心が惹かれたが、竿立てがない。
風も無く、波もなく、青く発光するケミホタルの竿先は、微動だにしない。
石持はこの湾内から姿を消したようだ。
午後8時半、納竿。
完璧に空振りだ。
帰宅
家に着くと、かみさんが玄関に灯りを背に立っていた。
いつもは、何処からか声だけが飛んで来るだけなのに。
「釣れたの〜!」
「いや〜、駄目だった。」
「あら、何にをしに行ってたんですか?」
「...........。」
(ハーッと溜め息が出る、説明もしんどい)
どっと疲れが出たのか、晩酌に缶ビールを1本飲んだだけで頭が痛くなり眠くなる。
来週は潮の動きも良し、大漁旗を風にはためかしたいな〜。 |