1999年 10月30日(土)大洗某堤防のタコと魚          
勝利なき戦い

                                 
       陽はまた登る
眼鏡を忘れた!
「リリーン」「リリーン」「リリーン」
朦朧とした深淵の彼方から、徐々に意識が目覚めてくる。
闇の中で、手をバタバタと右往左往させ、時計のアラーム音を断ち切った。
大分はっきりしてきた意識で、蛍光燈をつけ時計を見ると3時半だ。

暗い家の中を懐中電灯を点け、家の住人に気ずかれないように階下に降り、柱時計を見ながら着替えをする。
まだ時間は充分あると思いつつ顔を洗い、クーラボックスにアイスパックや魚の餌を入れ、出かける準備をしていると、
「ププー」
突然、外から遠慮がちに車の警笛が聞こえてきた。
柱時計を見ると、3時45分を指している。
午前4時に迎えに来るはずだったのに、慌てて外に飛び出すと、玄関の前でアジさんとぶつかりそうになる。

「まだ4時になっていないよ!」
「イヤー、目が覚めるのが早かったー」
ともかく彼の車に釣り道具を詰め込み、出発。
夜空には、無数の星が輝いていた。
車が大分走った所で、突然、
「眼鏡を忘れた〜!」
と、声を上げてしまった。

アジさんが心配気に、
「エッ!、どうする?」
「もう眼鏡無しでいいよ、それなりに見えるから」
いまさらと言う感じだった。

     昼過ぎ、波が騒ぎ出す
フナチャンに出会う
4時30分、まだ暗い港で、いつもノビタのHPに投稿して頂く、フナチャンに偶然会ったのには驚いた。
もちろんフナチャンも驚いたようだ。
初対面だが話題が共通しているので、初めて会ったような気がしない。
フナチャン、アジさんと現場に着いたのは5時前だった。

ちゃちなタコ天仕掛け
今日のノビタは、堤防の際を狙うタコ1本勝負。
タコの探り釣りは、暗いうちは全く釣れない。
明るくなるまでゆっくり仕掛けの準備をし、5時半過ぎ、周囲が明るくなってきてから勝負に出た。

今日のタコ天仕掛けは昨日、上州屋で購入したのだが、タコ釣りを知らないイメージが貧困なメーカが製作した品なので、はなはだ頼りない代物なのだ。
結果的に、ノビタの心配は見事に当ってしまった。
堤防でのタコ天仕掛けについて後述するので、興味のある人は1読乞う。
特にタコ天仕掛けを製作しているメーカは、是非見てもらいたいのだが”ノビタの釣り天国”を見ているとは思えないので、単なるノビタのぼやきで終わってしまうのか。

タコ釣りと結婚式のスピーチ
ノビタは明日、職場の結婚式に招待され、スピーチを頼まれていた。
まだスピーチの構想が中途半端だったので、タコ釣りをしながら構想を練ることにしたのだが、これがまずかった。
タコ釣りも、スピーチも、両方とも集中力に欠けてしまったのだ。

「...家(け)、及びご親族の皆様方、本日は真にお目出とうございます。」
海底を、タコ天仕掛けを引き摺りながら、
「タコはまだかエンヤコーラ!」
「....新郎○○君は、人1倍責任感が強く....困難な仕事を...」
海底から何の応答もない、
「何処にいるんだタコチャ〜ン?」
「二人が、末永く幸であることを祈りつつ...」

「キタ〜!!!」
お頭の中で、スピーチと、タコへの呼びかけが、騒々しく出たり入ったりしていると、タコ天仕掛けに、急に重さが加わったのだ。
重り負荷120号の船釣り用2.7メートルの竿を、ガーンとしゃくる。
タコはグワーと海底を離れた。
竿がギュイーンと弧を描き、ズッシリとした重さが竿を押し倒す。
最大張力30kgのPEライン6号が、ピーンと針金のように水面に突き刺さっている。

ギリギリとリールを巻いてくると、ゆっくりとタコが茶色い姿を水面に現した。
大きく息を吸い込み、リールを巻きながら竿先を下げ、水面から持ち上げようとした時、恐れていたことが起こった。
針が短い為、タコのボディーへのくい込みが浅く、引き上げようとした瞬間に針が外れ、
「グッバイ、ノビタ」と、タコは海底に、遁ずらしたのだ。
この衝撃で、結婚式のスピーチもまた振り出しに戻る。
「○○君は、.....コンピュータの....に従事し....」

タコとの勝利なき戦い
しばらくしてまたタコが乗ったが1度あることは2度ある、またまた水面まで浮上させたタコに逃げられる。
結婚式のスピーチは、先に進まなくなる。
「...(ここに入る言葉は?)...(うーん?)...活躍を..、(タコめ〜)」

午前7時、アジさんが今来たというキンさんと一緒にやってきた。
キンさんとは東海某堤防で、太刀魚釣りをした6月以来の再会だ。
キンさんも早速、黒鯛釣りに参加する。
この後、ノビタは2度あることは3度有る、またタコに逃げられる。
スピーチは混乱を脱してきたようだが...。

何度もタコに遊ばれているノビタを見て、地元のペテランが、ノビタのタコ天仕掛けを見てくれた。

左が自製のタコ天、右が市販のタコ天
やはりノビタと同じ感想を言いながら、彼が自製した仕掛けを貸してくれた。
ところがこの仕掛けも、ノビタの逃がしくせを止められなかった。

大ダコとの闘い
午前9時過ぎ、借りた仕掛けを根掛かりに注意しながら引いていると、急にピタ〜と、仕掛けが海底で微動だにしなくなる。
腰を低くした状態から一気に竿を持ち上げたが、ピクリともしない。
竿を斜め方向から引いても動かない。
これはタコだ。
タコだとすると、かなり期待できる強さだ。
この瞬間、スピーチも消えた。
道糸をタラリと緩め、持久戦に出ることにし、周囲の様子を見に行く。

キンさんは、この時点で47センチと、42センチの黒鯛を2枚上げていた。
アジさんは30センチ強の黒鯛を1枚。
ノビタの周囲はアナゴの棲み家となっているのか、50〜60センチ級アナゴが、釣り師に迷惑がられながら釣れている。
捨てると言うので、食べごろの奴を2匹もらった。
他に釣れていたのは、17〜30センチの石持がポツリ、ポツリと小アジが数匹。

                                
           キンさんの47cmと42cmクロ
15分ほどで戻ったが、竿は外観からは何も変った様子が見られない。
でも99%タコが釣れている確信があった。
タコに気ずかれないように、ソロリ、ソロリとリールを巻きながら道糸の弛みを取り、竿先を堤防の下まで下げ、
「エィー!」
と竿を持ち上げると、先程ピクリともしなかった竿が持ち上がった。

竿が90度近い屈折で曲っている、この重量感はただもんじゃない。
そのままジワジワとリールを巻き引き上げてくる。
水面に茶色い傘を広げたように、タコが浮上してくる。
助けを求めようと隣りにいた釣り師を見ると、遠くで投げ釣りに夢中になっている、呼ぶのに気の毒となり、そのままタコを水面から抜き上げることにした。

「南無八幡大菩薩!」
タコが水面を切り空中に上がる、瞬間、
「これは駄目か〜」
タコ天の針が1本だけ、タコの足に刺さっているだけだった。
そのまま一気にタコを堤防の上に上げるには、タコと竿先との距離があり過ぎる。
リールを巻き、タコが堤防の中央くらいに上がった所で、一気に竿を持ち上げた時に、タコが水面に落下、
「ボチャーン!」

北風がピューと吹き抜ける。
隣りの釣り師が何も知らずに、平和な顔をして戻ってきた。
(「戻るのが遅いんだよ〜」)
スピーチはだんだん混乱し、発散して行く。
                                          
ヤナイさんとアジさんの釣果
悲劇は続く
それから10分もしない内に、また仕掛けが動かなくなった。
タバコを吸いながら5分ほど待った後、竿を持ち上げると先程より物足りないが、ゆっくりとタコが水面に浮上してきた。
隣りの釣り師が、
「タモを出しますか?」
と声をかけてくれたのだが。

先程とは違い小振りなタコなので今度は大丈夫と、一気にゴボウ抜きに出たが留めの1発、
「ポチャーン」
タコは嬉しそうに、海中に沈んで行く。
悲劇の5連発が終わった。

この後は2度とタコは掛からなかった。
スピーチも乱れぱなしとなる。
昼を過ぎると、精も、根も、体も、ボロ、ボロ、ヨレ、ヨレとなる。
腕も足も鋳物のように重い。

 
アジさんとクロ
戦い終わって日が暮れて
午後1時、キンさんが用事があるので先に帰ると挨拶に来た。
キンさんは黒鯛2枚の後にフカセ釣りで、47センチのアイナメと30センチ級石持をそれぞれ1匹ずつGetし、満足のいく釣果だったようだ。
キンさんに、
「ノビタは、今日は仏滅ですよ」
と言うと、
「タコにとっては、大安ですね」
との答えが返ってきた、ごもっともでござる。


                                          
ノビタが授かった天の恵み

午後2時、ノビタも頭の中で乱れた明日のスピーチを纏める為に、アジさんと早めに帰る事にした。
アジさんは結局、30センチ級黒鯛を2匹と、24センチほどのメバルを1匹、彼にしては不本意な釣果に終わる。

アジさんの釣り友であるヤナイさんは、37センチの黒鯛1匹と、彼にしては不調な釣果だったようだ。
ヤナイさんは釣るのが楽しみで、食べることには興味がないらしく、今回も37センチの黒鯛をノビタが頂いてしまった。
午後2時、引き上げ直前に、地元のタコ釣り師から500g〜1kgのトレ、トレ、ピチ、ピチ、ペタ、ペタのタコちゃん3匹を頂いた。
タコに泣かされたが、思いがけず天の恵みを授けられた1日となる。

タコ天思考
タコ釣りは昔からあまり人気がないせいか、何処の釣り具屋に行っても堤防でのタコ釣りを全く知らない仕掛けしかおいていない。
釣り具で有名な「上州屋」、「アプローチ」に飾られているタコ天仕掛けは、タコが両手を叩いて喜ぶような仕掛けで、情けない。
あの仕掛けはせいぜい、イイダコ釣りにしか使用出来ない。
そのくせ値段だけは馬鹿高いから、もしこれから堤防で1kg〜4sのタコ釣りに挑戦してみようという方は自作するしかない。

自作する場合、仕掛けの重りは40〜50号にする。
重りがこれ以下では潮の流れで思うように底が掴めない。

市販のタコ釣り仕掛けは大抵重りが30号なのだ、あまりにも潮の流れの勢いを知らな過ぎる。
重りはタコ天仕掛けの裏側に固定式は駄目、裏側にブラブラと宙釣りになるような重りが良い。
この方式だと、仕掛けを海底に沈めても必ず針と餌がある方が、表になって着地するからだ。
最も重要なことは、針の袖の長さだ、店で売っているのは短か過ぎて、タコの大きさに不釣り合いの為、海底から引き上げてくる途中で大半は外れてしまう。

タコの体に深く食い込むように、針は長い方が良いのだ。
仕掛け全体がピンクか赤色にコーテイングされたものの方が、過去の実績からするとベターだ。
以上の事を留意してタコ天仕掛けを購入するか、自作する。
市販のものに、上記全てを満足するものは売っていない。

昨年まで上記条件を、全て満足する仕掛けが、日立港の「山県屋」に800円位で売っていたのだが、今日、見に行ったら姿を消していた。
値段だけ980〜1200円と高くなった仕掛けがあったが、全くちゃちな代物だった。
釣り具メーカーは何を考えて、あんなものを製作しているのか不思議だ。
あまりにイメージが貧困過ぎる。
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