1999年 11月13日(土)旭村海岸にて                
石持はまだいたよ♪


                                          今日は釣れるのかな〜
旭村は遠い
午前2時、ト.ト.ト.ト〜の音を響かせて団地の中をバイクで通り抜ける。
セブンイレブンの旗が緩やかに風に揺れていた、まずい!行く先に迷いが出る。
南に位置する旭村の海岸は、風が吹くと突堤は波を被り、周辺の海は底荒れして期待薄なのだ。

北の久慈川河口は、少々の風なら屁でもない。
「どうする?」
遠くに行きたいという気持ちが勝った。
団地の出口でハンドルを左に切り、予定通り南を目指す。
闇に包まれた国道245号を、50CCバイクで走っていると、突然、目の前に黒い影が飛び出して来た、野良犬だ。

オッ、ト、ト〜、そこのけ そこのけ ノビタが通る。
国道245号から国道51号へ、急に道路は賑やかになってきた。
後ろから、ダンプだ、4駆だ、普通車だが、どんどん追い越して行く。
どうぞ、どうぞ、お先にどうぞ。
こちらは法定速度30キロをちとオーバーぎみですが、道中安全をモットーにまいります。

恐い道
「旭村役場」「くるみや釣り具店」方面の標識のある交差点を、左に折れると暗黒の世界が待っている。
始めの目印は”玉田の火の見櫓”だ、そこを右折しさらに進むと自動販売機が見えて来る、その前を左に折れ、入り組んだ人家のある道を抜けると、海岸に続くくねくねとした坂道がある。
この坂道を、この時間通るのは余程胆っ玉がいる。
鬱蒼とした松林に覆われた坂道は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が徘徊する道なのか、それとも亡霊のさ迷う道なのか。

出るな、出るなよ、出ないでくれ〜!
「この世に未練を残し、死ぬに死にきれず...」
何て、ノビタの前に現れても無駄なんだよ〜!。
いつもこの坂道を下る時には、正気ではいられない。
坂道を降りると人気のない海岸線に出る、そこを左に折れて、さらに進んで行く。
空に星なし、月なし、大地に人家の灯りなし。
            
                                波が何だ!
真っ黒い砂浜に白い波が、ドド〜ン、ドド〜ンと打ち寄せている。
途中で道は行き止まり、工事中立ち入り禁止の看板が立っていた。
丁度そこが、目的の突堤前だった。
荷物を降ろし、懐中電灯を照らし、
「いざ進めノビタ!妖怪が何だ!化けもんが何だ!」
気合を入れないと、何か挫けそうになる。

震えて釣れ
午前3時半、風は全く吹いていない、以外だ。
予想外に暖かい。
砕ける波の音も不気味な、暗闇の突堤にノビタが一人。
懐中電灯の灯りを頼りに、釣りの準備をしている間も落ち着かない。
突然、殺人狂や、亡霊や、海坊主が背後から飛び出してくるような恐怖、妄想に悩まされているのだ。
妄想を振り切るように、暗い海に第1投。

暗闇での取り込み
磯5号4.5メートル細く柔軟性のある竿、重りは△重りの20号、PEライン2.5号(より糸で出来ていて、ナイロン糸の5号〜6号の強度がある)を使用している。
PEラインは、弾力性が0に近い針金のような道糸だ。
この為、持ち竿にして待つと、海底から発せられる信号を精細に手元に伝えてくれる。
仕掛けを投入してしばらく、道糸は時々重りが海底をゴトゴトと転がる反応しか伝えてこなかった。
投げてから1〜2分経過、突然、ググ、グーーー、ググググー。
魚が餌を咥えた、反転して逃げる、頭を振っている。
魚の動きが目に見えるように手に伝わってくる。
グイッと竿を合わせると、ピーンと張った道糸からズッシリとした重量感が返えってきた。

ここまではいい、この後の暗闇での取り込みが大仕事なのだ。
ゲームソフトのスリリングな世界を、地で行かなくてはならない。
(1)穴の開いたブロックの敷き石を5〜6メートル波際に進まないと、魚を引き上げることが  出来ない。
(2)ブロックは苔が生えていて、スパイク付きのブーツでも足が滑り危険である。
(3)波は絶えず、このブロックの敷き石を洗う。
(4)闇夜の世界、暗い足元は足場が不明瞭である。
上記条件全てをクリアしないと、魚を手に入れることは出来ないのだ、これはパソコン上のゲームではない、間違えれば冥土に通じる気狂い沙汰の行為なのだ。
皆さん、くれぐれもノビタのまねはしないで下さい。
ブロックの上に置いてある懐中電灯の向きを調整し、灯りをブロックの斜面に向け、ソロリ、ソロリと斜面を降りながら、リールを巻いていく。

魚は、引き波に引かれ、寄せ波に押されながらジワジワと岸に近ずいてきた。
暗闇で距離感がつかめない、途中から仕掛けはピクリとも動かなくなってしまった、ブロックに仕掛けごと引っ掛かったのだ。
打ち寄せる波の飛沫で、びしょ濡れになりながら、引き抜こうとあせる。
ハズレない!
仕掛けも魚もあきらめようと、思いっきり引いた、抜けた!
闇の中に、白く光る石持ちは25センチ程の良形ではないか、嬉しさがどっと沸き上がる。
いつの間にか、暗黒の世界を支配する妖怪どもの呪縛から解き放たれていた。

    
どうってことない突堤ですが..
夜空に星が
続けて2匹目が来た。
20センチを切った小振りなサイズだったが、魚影は濃いと期待が膨らむ...。
そうは問屋がおろさなかった。
始めの勢いは何処へやら、魚信の間隔は極端に間延びしていく。

おお〜い、石持よどうした〜!
早く来てくれ〜。
背中におんぶお化けが張りつくよ〜。
午前4時半を廻った頃に、坂道を橙色の灯りが闇の中を移動してきた。
灯りは、ノビタが来た道を忠実にトレースしている。
どんどん近ずいてくる。
車は2台だ。

やっと安堵の充足感で体が浸されてきた。
そのうちにポツン、ポツンと砂浜に小さな灯りが揺れ始めた。
こちらには来ないようだ。
夜空は雲に覆われ闇と化していたのだが、いつの間にか東の空にボーッと一つ、橙色の星が輝いていた。
しし座のレグルスだ。
この星の輝度はどのくらいあるのだろう、他の星を圧倒する明るさは、一等星という表現をはるかに超えているような気がするのだが。
そのうちに無数の星が現われ、夜空も賑やかになってきた。

賑やかになる突堤
午前5時頃、遠くから小さな灯りがこちらに向かって来る。
次第に近ずき、遠慮がちに大分離れた所に荷物を降ろした。
後客は竿を南側に1本、北側に2本セット。
明るくなってから分かったのだが、2本はイワシ餌でのヒラメ狙い、1本は石持狙いだった。
ノビタ同様に、竿は波に揺れているだけのようだ。
        
                                     本日釣果
午前6時、ノビタの隣りに地元のおっさんが来て、先端よりに陣取った。
ノビタのいる場所が波飛沫を受ける限界地点なので、おじさんは、波を被るのを覚悟のようだが、これもなかなか度胸がいる行為だ。
少し遅れて彼と同じ地元のおっさんが来た。
ノビタの周囲に集まった3人さん、店を広げたものの閑古鳥が鳴いている。
ノビタはそれでもあきない程度にポツリ、ポツリと釣れていた。

恐怖の報酬
午前7時過ぎ、ヒラメに挑戦しようとルアー竿を出した。
4〜5年程前、若者が此所でルアーを操り、5枚ものヒラメをフイッシュ.オンしたのだ。
あれ以来ノビタはラマンチャの男になってしまった(見果てぬ夢を追う男)。

目の前は砕けた波で白い泡の海、1投目からやる気を逸していた。
投げて3度目、止めようとルアーを引いて来ると、隣りの人の道糸が潮に流され、ルアーとクロス、そのままブロックに引っ掛かってしまった。
慌ててブロックの斜面を降りようとした途端、足元から地面が消えた。
深さ70センチ程のブロックの下に落ちたのだ。
愛竿のシーバスロッドを、落ちた瞬間にバシッと大地に叩きつける。

右腕もブロックに打ちつけたのだが、咄嗟に心配になったのは竿だった。
幸い竿は何ともなくホッとする。
隣りの人とのお祭りはことなきを得たが、時間の経過とともに右腕の痛みがひどくなってきた。
昨夜の飲み会、寝不足、急激な気温の上昇、そして痛烈な右腕の打撲、午前8時にGive UP。
恐怖と疲労の報酬は、かろうじて17〜27センチの石持が16匹。
家に帰りつくと右腕の痛みはさらに激しさを増してきた。
食事もそこそこに、右腕を湿布しながら布団に潜り、後は白川夜船。
夕方の4時過ぎに目が覚めた時には、痛みは大分引いていた。
旭村の海岸で、魔性の毒気にあてられたのかもしれない。
恐い海岸なのだ。
旭村の海岸にもし釣りに行く人がいたら、くれぐれも魔除けのお守りをお忘れなきように。
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