1999年 12月11日(土)東海某堤防                
           
          名人とT.Fさんと...


                                                冬の朝

凍てつく朝
午前5時、目覚しが叫ぶ。
「起きよ!」
「目覚めよ!」
「リリリリリリ♪リリリリ♪」
凍りついた空気がシンシンと顔を襲い、温かい布団から出られない。

しばらくもぞもぞしていたが、エーイッ!と気合を入れて布団から飛び出した。
階下の居間でストーブに火をつけ、急いで着替える。
電気炬燵のスイッチをオン、餅を電気ヒータで2個焼く。
まだ外は暗い。
蛸は明るくならないと釣れないと、しばらく炬燵に入っていたが、入ると出れない。
炬燵から出たのは、午前5時40分。

昨日、修理が終わって戻ってきたオンボロバイクを車庫から出す。
盗難に会い、ガタガタにされたバイクが、不死鳥の如く蘇った。
バイクのキックを踏む、3度目にエンジンが息を吹き返し、ドドドドドードーと、元気に轟き音を響かす。
スロットルを廻し、まだ暗い団地の中を飛び出した。

エンジンフル、針の様に鋭い冬疾風(ふゆはやて)が、顔や、足元に突き刺さる。
「風ニモ負ケズ....冬ノ寒サニモ負ケズ...」
涙と鼻水が、顔から吹き飛んで行く。
さらば涙。
さらば鼻水。

険しい道
午前6時、久びさの駐車場だ。
冷えきった駐車場に、車が8割りほど埋まっている。
駐車場北側の狭き穴を這うようにくぐると、直に第一の関門だ。
幅2メートル、深さ1.5メートルほどのU字型の水路(?)が、横一文字に埋められ、行く手を遮っている。
U字型水路の上に、幅5センチほどの鉄の棒が、1メートルほどの間隔で梯子のように並べて固定されている。

よく見ると、誰かが板切れを鉄と鉄との間に置いていた。
その板切れの上に片足を乗せて、U字型水路を一跨ぎする。
ジャリ石の大地を、コンクリートで覆う工事中で、トラクタがいたる所に止めてある。
歩いて30分、第二の関門が行く手を阻んだ。
全く予想外のフェンスが、突然目の前に出現したのだ。
よく見るとフェンスはまだ未完成で、途中からは網が張られていず、鉄の枠組みだけになっていた。
そこを難なく抜けると、50メートルほど行った所が目的地だ。
このフエンスが帰りには完成し、帰りはえらく遠廻りさせられてしまった。

再会
目的地に着いたのが6時半。
先客が3人、釣りの準備をしている。
ノビタも早速タコ釣りの仕掛けを出し、30メートル程沖に仕掛けを投入する。
                                           
          T.Fさん
そのまま置き竿にして、タバコに火を付けてボンヤリしていると、
「どうですか?」
と、今来たばかりの釣り人に声をかけられる。
「来たばかりなんで..」
その釣り人はノビタに遠慮したのか、20メートルほど離れた所で商売道具を並べ始めた。

ノビタが日の出の写真を撮り始めると、その釣り人がこちらに向かって来る。
「...?」
釣り人が、
「ノビタさんでは?!」
「はいそうです」
小川町のT.Fさんだった。
T.Fさんとは今度で2度目だが、顔をすっかり忘れていた。

T.Fさんの今日のターゲットはヒラメだそうだが、どうやら坊主覚悟のようだ。
ノビタのHPに、何度か釣行報告されているが、いまだ不発のようだ。
今年も残り僅かだが、昨年の浜野さんのように12月31日に劇的な勝利を得ることもあり、まだまだチャンスはある。
是非、モンスターをGetして欲しいのだが..。

  
    1匹目
辛うじて蛸Get!
ノビタは2日前、新聞で日立沖から大洗沖に渡りタコが来た事を知り、3年前に此所で渡りタコが釣れたことを思い出し、来たのだ。
隣りの釣り人は、沖がすっかり堤防で囲まれたので、もう此所には、渡りタコは入らないだろうと言う。
目の前に長く横たわる沖堤防を見ていると、それはまぎれもない真実に聞こえてくる。

それでも、予想を裏切る真実があるかもしれないと、思ったのだが...。
タコの投げ釣りは全く反応がなかった。
今度は探り釣りに切り替えた。
此所の堤防際は大小の捨て石がビッシリ敷設され、海底は凹凸が激しく、非常に探りにくい。
午前7時、始めの1匹を水面でバラす。
次に掛かった奴は水中から引き上げる途中、何度か激しく竿を上下させ、針をタコの肉にしっかり食い込ませて、無事抜き上げることが出来た。

   
                                              2匹目

遠くでTFさんが、大きい自転車の側をクルクル動き廻る小柄な人と話をしている。
小柄な人の声が、途切れ途切れに空気を伝わって来るが、意味は分からない。
2匹目のタコを上げたのは午前8時頃だった、それ以降は根がかりの連続で仕掛けを3個ロストしてしまい、戦意喪失。
10時半に納竿。

噂の男
T.Fさんの所に戻ると、バケツに豆アジと、それと同じ大きさの正体不明の魚、合わせて5匹が入っていた。
隣りの人からもらったらしい。
    
ヒイラギ?
隣りの人が巷で有名な、村越兄弟のお兄さんである事を教えてもらった。
T.Fさんの話では、村越おじさんはアジ釣りの名人だと言う。
T.Fさんと同じような仕掛けなのに、T.Fさんは全く釣れないが、名人は殆ど入れ食いらしい。

名人に仕掛けを聞くと、今はサバ皮や、サメの腸、バケ皮がよく、スキン類は駄目だという。
この時点では、半分信じることは出来なかったのだが...。

                                            
名人の後ろ姿

名人が遠くに投げていた浮子仕掛けを引いて来ると、堤防から15メートルほど先で、小さな魚が術繋になって浮上してくる。
目から鱗が落ちる思いだ。
名人の技を、目の前で見せつけられてしまったのだ。

この後も2本の竿を交互に上げながら、次々にアジを釣り続ける。
彼は宣う、
舎弟(しゃてい)と釣りさ来ても、俺の方がいつも釣れる。
あいつは釣れない。
それでもあいつは俺のまねをしない。
あいつはあいつのポリシーで釣ってるんだから仕方ねえんだ

名人のイメージには不似合いなカタカナ語が飛び出してきて、思わず笑ってしまう。

名人の話
サビキ仕掛けが、道具入れに20種類くらい入っていて、きれいに整理されていた。
全て手作りだと言う、面倒なサビキ仕掛けを1個、1個手作りする根気に、恐れいる。
名人は釣りを忘れ、おしゃべりに夢中になってきた。
早口のせいか時々彼の話を聞きもらす。

名人は、此所で釣りができるのも今週が最後だろうと、ぐるりとフェンスが張られた先の小屋を、指で指している。
「あそこに守衛所が出来て侵入者を監視するようになると、もう入れねぇー」
「此所が世界に開かれた港だなんて笑わせる、世論に攻撃されない為のカモフラージュしてるんだっぺ」
またまたカタカナ語が飛び出す。

「この港は梶山静六や、政府の策略だよ」
確かに昼間、この港で工事船を除くと、まだ船を1隻も見たことがない。
何故一般人の侵入を、厳しく取り締まる?。
此所は、原子力の廃棄物処理場になるの?。
今、この港は港湾整備の工事が急ピッチに進められ、日に日に海は巨大なコンクリートの下敷きになって行く。
この港が完成することを喜ぶのは誰?。

         
タコ2匹
未来に、とんでもない負の遺産を残すことが悔やまれる。
子供だけでなく、大人にも必要な心の糧となる自然の浜、海を奪ってしまった。
港は立ち入り禁止となり、侵入者は厳しく咎められる。
名人は逆らうだけ無駄だから、逆らわない方が良いと言うのだが...。






これだけ?
名人や、小川町のT.Fさんと、午前11時に分かれて帰ってきた。
厚着をして来た為、30分も歩くと全身から汗が吹き出し、駐車場に着く頃には、すっかりバテててフラフラになる。

家に着いたのは、12時を廻っていた。
600グラム程のタコ2匹をカミさんに見せると、
「これだけ?」
はい、それだけです。

空腹に昼飯をぶっ込み、缶ビールを一気に呑みほすと、睡魔に襲われ炬燵の中で寝てしまう。
カミさんが、壊れたスピーカのように何度も叫んでいる。
「2階に布団が布いてあるのよ!ったくー!」
目の前の雑音から逃げるように、ヨタヨタと2階に登り布団の中に潜り込んだ。
午後5時まで爆睡。

 
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