2002年5月18日(土)湊寄りの堤防


       ドラマだ!

今夜は宮本武蔵で

「風の中のすばる 砂の中の銀河・・・・・♪」

今夜もプロジェクトX並みのドラマを期待して。

まだ明るいうちに現場に着いた。

北東の風、わずか。

気温も湿度も高く、蒸し暑い。

現場には4人、先客がいた。

その中に、黒鯛にとりつかれた拓さんも。

拓さんの前を通りがけに一言声をかけ、ノビタは

先を急いだ。

海は広いが、魚の通路と住宅街は定まっている。

その圏外は、水と砂があるだけの空き地。

ノビタの足は魚の住む街角へ。

幸い、そこは空いていた。

今夜は磯1号と2号の竿2本、宮本武蔵で行こう。

もちろん磯2号は大物狙いさ。

狙うは30センチオーバー

周囲が暗くなってきた午後7時10分、竿2本の仕掛けを

海に投入した。

磯1号は根掛かり覚悟の危険地帯向け、ハイリスク・ハイ

リターン狙いだ。

その磯1号に、何度もアタリが有るが針掛かりしない。

やっと、15〜16センチのガキンチョメバルが針掛かりした。

この後も同サイズを3匹追加、全てリリース。

今日の狙いは30センチオーバーである、小物は相手に

していられない。

30センチオーバーを仕留める、これはもう子供の

遊びではない。

子供になろうと来るのだが、大人のプライドがしゃしゃり

出て、また大人に戻って子供を苔にして。

大願成就

磯2号の竿は、大物ソイの実績があるポイント狙い。

ポイントから数メートル離れた沖に仕掛けを落とし。

後は竿を地上に放置したままにしておいた。

磯2号の浮子は、ゆっくりとヒット圏を移動し、通過して

行く。

浮子が何かにつまずきコテンと転んだ。

「・・・・?」

横倒しになった浮子が、ヨタヨタと起上ろうとして。

またまた仰向けにぶっ倒れ、そのまま寝ている。

まるで泥酔者が道端で寝ている感じだ。

「そんな所で寝ると風邪を引くぞ」

とそっとリールを巻き、竿を引くと。

ブレーキが掛かった。

「根掛かり?」

竿を立てながら引く、モッタリと海中の仕掛けが動く。

リールを巻く、ズルズルと動く。

安もののリールが、ギギーギギーと悲鳴を上げた。

道半ばで、ドタッ、ドタッ、ドドドドーーーと敵が反撃に

出る。

追撃を交わしながら、足元に引っ張て来て。

水面に浮上させようとすると。

バシャバシャバシャと激しく抵抗し、竿に往復ビンタを

何度も食らう。

しばらく応戦、敵が弱まった所でハリス3号を頼みに、

ソーーレーーーッと堤防の上にゴボウ抜き。

大願成就の30センチオーバーだった。













とんでもない奴に

磯1号の餌を交換していた時だ。

突然、ガリガリガリと地を引き摺る異様な音が。

ハッとして後ろを振り返ると、置き竿にしていた磯2号

5.4メートルの竿尻がハネ上がって、そのまま

ドボーーンと海へ。

フイを突かれた。

まさかまさかの奇襲攻撃。

手の打ち様が無かった。

悪夢の一瞬だった。

20メートル程離れた所にいる拓さんが異様さに気ずき、

「どうしたんですかーー」

と走って来た。

「大物に竿を持って行かれたよーー」

拓さんも、ノビタが見つめる海を一緒になって凝視。

ヘッドランプの灯りは頼りない、暗い海に漂う竿をよく

照らしてくれない。

「何処、何処、何処ですか?」

と拓さんが目で探していたが、やっと見つけた。

騒ぎを聞いて、見知らぬ若い黒鯛釣り師が飛んで来た。

暗くて顔が分からないが、とりあえずZさんにしよう。

拓さんが、竿を引っ掛けるためタモを持って来た。

竿は、いつか視界から消えていた。

その時、拓さんが言った。

「あの竿、いくらしたんですか」

ノビタは竿を失ったショックを笑顔でごまかしながら、

「1万7千円だけど・・・」

「そりゃ大変だーー」

拓さんが慌てて暗い海にヘッドランプの灯りを放射し、

ジッと海を凝視する。

また拓さんが聞いてきた。

「電気浮子は、いくらしたんですか」

「千四百円だけど・・・」

今度は無視された。

(後で知ったのだが、拓さんの電気浮子は2千円だった。

 拓さんは、自分の持っている物の値段を基準に比較し、

 温度を上下している様だ)

その時、Zさんが叫んだ。

「あれはリールか?ゴミか?」

Zさんが言う方の海を、皆で見た。

一瞬、シーンと静まりかえる。

3人のヘッドランプの灯りが届く、ギリギリの所にそれは

浮かんでいた。

拓さんが叫んだ。

「あれはリールだ!」

拓さんがタモを伸ばす、届かない。

Zさんが、自分のタモを取りに走って行く。

浮遊物が堤防に僅かに近ずく、輪郭がはっきりして来た。

間違いなく竿だった。

Zさんがタモを持って戻って来た。

Zさんのタモは拓さんより1メートル長い。

Zさんのタモが、やっとのことで浮かんでいたリールを

捕らえ、竿は無事回収された。

「ありがとう御座いま〜す」

思わずノビタが、嬉々として叫んだ。

「これで魚が回収されれば言うこと無し」

とリールを巻いたのだが。

やはり根に逃げ込まれ仕掛けは動かない。

彼奴はまだ、この道糸の先にいる。

くやしいが、手も足も出せない。

拓さんも、Zさんもしばらく様子を見ていたが、大物

見学をあきらめ戻って行った。

しばらく竿を放置しておいたが事態は好転せず、

強引に道糸を引くとバッシーーと金属音を発して、

道糸が切れた。

その途端、アンビリバボーー。

50メートルほど沖の暗い海上に、今まで消えていた

浮子が、ボーーッと海中をピンクに染めて浮上。

その直後、浮子はまた暗い海上に没し、今度は

永遠に消えたままとなる。アーメン。

この後、一度ある事は二度、三度と続き、手持ちの

全ての電気浮子合計3個をロストした。

午後9時、大量に余った餌を海にいる魚達に進呈し、

嬉しい色と、悲しい色を混ぜ合わせた色に染まりながら、

現場を後にした。

「人類はいつまで立っても不完全であるよりほかはない。

不幸であり、不自由であるほかはない」

              海音寺潮五郎 ”乱世の英雄”より

とうとうまた大きな未練を残してしまった。

海中に消えたまだ見ぬ恋人へ。

  「僕は君に 首ったけ

    死んでも君を 離さない

      地獄の底までついて行く

  Oh,please stay by me Diana ♪」

           ポールアンカ  ”ダイアナ”より

                    
SEO [PR] @[r AEx@o^C ^T[o[ SEO