2002年8月14日阿字ケ浦方面堤防
     タコ釣り始末記

やくざな車

義兄の運転するワゴン車の中は、まるでジュークボックスだ。
流れる歌は、ど演歌も、ど演歌。
北島三郎ときたもんだ。
                      
焼け石になって待つ
「親の血をひく 兄弟よりも〜
 かたいちぎりの 義兄弟・・・・♪」
が、車の中いっぱいに充満し。
「おひけーなすって、おひけーなすって」
と曲った道も真っ直ぐに、ブッ飛んで行く。

家を出て僅か10分、アッと言う間に海に着いた。
車が止まり、ジュークボックスのスイッチが切られ。
途端に、義兄のやくざな顔が、間伸びした元の顔に。

太陽の季節
既に太陽は、天と地の中間ほどに有り。
ギラつく太陽が、昔の歌を運んで来る。
「ギーラ ギーラ 太陽が・・・・♪」
「涙の太陽」バイ・安西マリア。
太陽の熱光線で、海も空も港も全てが白ちゃけていた。
ただ生きているだけでも大変な「太陽の季節」だ。
昔のビューティフル
義兄と、白く乾いた堤防の上を、先端に向かって歩いて行く。
堤防先端付近に7〜8人、途中にも10人ほどの釣り人がいた。

皆さん、じっと海を見つめている。
その姿、苦行僧の如く。
「心頭を滅却すれば火おのずから涼しい」
と精神力で乗り切っているのか、石の様に不動だ。

狙うはタコ
彼等と同じ獲物が目的なら、タジタジであるが。
我々の狙いはタコ。
見渡す限り、我々と同じ獲物を狙っている先客はいなかった。

タコ釣りでボーズを食らったのは、これまでの経験では、10回に1回程度と、恐るべき確率なので。
充分に、自信はあった。
堤防の中間点で荷を下ろし、タコ釣りを開始したのは午前7時。

義兄に、タコ釣りと言う「一夏の経験」をしてもらい、男の花道を飾ってもらうつもりだが・・。
荷を下ろした場所から、ノビタは先端に向かってタコを探って行く。
義兄は逆に、今来た道を戻る方向にタコを探って行く。

開始してから1時間半、先端近くまで探ったが反応無し。
そしてとうとう根掛かり。
太い道糸をライターの火で焼き切り、荷を置いた所に戻ると。

  
焼けた堤防にパラパラと
大願成就
荷を置いた所から10メートルくらいの所で、義兄が腰を下ろしボーッとしていた。

どうしたのか聞くと、根掛かりしたと言う。
「・・・・・・・・?」

「ひょっとすると!」

堤防の上に転がっていた義兄の竿を持ち。
竿先を水面に向け、ソロリソロリとリールを巻き道糸の弛みを取って、大きく息を吸い、
「エーーイッ!」
と竿をハネ上げると。
ズッシリと反動が戻って来た。

そのままリールを力いっぱい巻く。
海底の未確認物体が、ジワジワと浮上して来る。
まだ姿は見えない、が、間違い無い。
「タコだ〜〜!」

義兄が、目玉を飛び出させ、口を開け、フッ飛んで来た。
竿を義兄に代ろうかと思ったが、バラシてはと。
そのまま、一気に水面に。
「ほんとゃ〜タコ野郎だ〜!」
義兄が素っ頓狂な声を上げ手を叩いている。

水面からゴボウ抜きする時は、毎度の事ながらハラハラドキドキもんだ。
このタイミングで何度バラシた事か。
息を止め、静かに弧を描くように、堤防の上に抜き上げた。
1キロは超える良形だった。

そしてノビタにも
「今に見ていろ僕だって〜♪」
と義兄と同じ方向を探って行く。
海底は砂地だったので、根掛かりは気にならない。
9時頃か、ゴツゴツした捨て石地帯に来た。
タコ天仕掛けが、ゴツンと石に触れる度に、ピョンと仕掛けをジャンプさせ、海底を移動していると。

ピョンとジャンプした瞬間に、グワーッとした張力が。
竿をハネ上げる、重い!。
「タコだ〜!」
ガンガンとリールを巻き、そのまま堤防の上に。
義兄が釣ったよりも小振り。
700〜800グラムほどか。
                     
カモメに一部始終を・・・
悲しい結末
それから1時間粘ったけど、後が続かない。
10時納竿。
2年ぶりのタコ2匹、それで充分だった。
お頭の中で、幸福の黄色いハンカチが、パタパタと風にたなびく。

幸せは此所までだった。
この後に、ブラックホールの様な大きな落とし穴が待っていたとは・・・。
ともあれホップ、ステップ、ランラン♪と、タコが入っているスカリを引き上げに行く。

水面を見ながらスカリを引き上げようとすると、何とーー!、タコがスカリの外に。
「ウッソーーー!」
目を擦り、もう一度凝視。
「オーマイゴーーッ!」
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と、スカリを引き上げた途端に、
「ドボーーン!」
タコが水面に落下した。

慌ててスカリを引き上げると、スカリの中は、もぬけの殻だった。
義兄がドボーンの音に驚き飛んで来る。
事態を知ってガックリ、このスカリは最近買った物で、網目が大きかったのだ。
義兄と2人、重い足を引き摺って帰って来た。
帰りの北島三郎は、何やら悲愁の漂う、

 「義理ある人に 背を向けて〜
・・・・泣くな 騒ぐな 東海の ・・・八州かもめ♪」

沁みるな〜。
 
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