毎度・・・・ 孤独な股旅 満月の夜だった 風に倒され、起こされる枯れ草が、ザーッ、ザーッとわめいていた。 枯れ野の中を、後ろ姿に荒寥とした憂鬱を引き摺りながら木枯紋次郎が行く。 三度笠を手で抑え、爪楊枝を口に、風にバタバタと縞の合羽をなびかせながら。 「まともに明日を待っている者に限って、今日をおろそかに生きている。俺には明日はない。だから俺は今日1日を一生懸命生きなければならないのだ」 と吐き捨てるようにつぶやいた。 無人 枯れ野を過ぎると、コンクリートで固めた堤防が伸びていた。 月の光りに照らされた荒涼とした堤防、人影は無い。 空のペットボトルが、カラカラと足元を転がって行く。 風に混じって微かに聞こえてくる車の騒音と。 テトラ際で小さく砕ける波の音。 此所ほど落ち着ける場所が、他にあろうか。 街の灯が遠い 愛用の名竿「乃比汰」を、竿ケースから取り出し、夜空に真っ直ぐ引き伸ばしてみた。 全長5.3メートルのガイド付き磯竿1号だ。 先端が風にしなやかに揺れている。 竿の先端は針金ほどの細さで、一見心細いが、3キロ級の大魚でさえ、その力を吸収し強靭に足元に引き寄せてくれる。 惚れ惚れする磯竿だ。 俺には、お前という強い味方がついているんだ。 何でも来い!。 電気浮子の黄色い灯 釣りを開始したのは午後7時半を廻っていた。 電気浮子の黄色い灯りが、黒い水面に貼りつき、ナメクジが這う速さで左に流れて行く。 左に流れ切った所で、投げ直す。 これを繰り替えしていた。 開始してから30分ほど経過したか。 浮子が、黒い海にぼんやりと光りの輪を滲ませながら沈んで行く。 竿を握る手に力が。 浮子を見ながら、合せるタイミングを計っていると。 浮子は10cmほど沈み、そこでUターン、そのまま水面に浮上して来た。 どうやら餌を口から離したらしい。 張り詰めた神経が瞬時に崩壊し、落胆も小さくなかったが、久々の反応に元気が沸いてきて、すぐ投げ直した。 この後、同じようなアタリを2度ほど味わったけど。 結局、それだけだった。 午後9時、撤退。 The End |