2004年4月9日(金)三流の釣り場
         午後6時30分〜午後10時

       春の異変か


春の宵                    サフラン色に染まった空
カミさんに釣り場に送られる車中、
「運動なら、団地の中を散歩すればいいのに」
と今日も、果物ナイフのような言葉で、心をグサリ。
確かに結果だけみると、魚を釣って来るわけじゃないから単なる運動かもしれんけど。

「団地の中で、男のロマン(夢)を追えというのか、尺メバルを釣れというのか」
と声に出さずに、大声で叫んだ。

もしノビタが、夕暮れに団地の中を徘徊していたら、間違いなく不審者と思われ即御用になるか、恍惚の人と思われ即病院に入れられるかである。
すると彼女は、その筋の関係者に晴々とした顔で、
「家の人ではありません」
と白を切るのかもしれない。
このノビタの胸の内を、谷村新司は、見事に歌にしてくれた。
  いき
「呼吸をすれば胸の中
  こがらし な
 凩は吠き続ける
 されど我が胸は熱く
 夢を追い続けるなり♪」(「昂」)

男の名誉にかけても釣らねばと、悲愴な思いを胸に。
我は行く。
海を渡る透明な風が南から北へ。
夕陽が沈み、サフラン色に染まった西の空に。
夜がしのびより、星の数が増してきた。
春うらら、春眠暁を覚えず・・・か。
しゅんしょういっこく あたいせんきん
春宵一刻価千金、釣れなくてもいいじゃないか。
魚ナンゾ、ナンボノモノカイ。

アタリ頻繁なり
浮子釣り用の竿を2本用意した。
根がものぐさなので、いつも竿は1本だけだが。
今夜は男の名誉にかけても、
「皇国ノ興廃 コノ一戦ニアリ」
で行くのだ。

すっかり暗くなった午後7時、釣り開始。
仕掛を投入してから1〜2分。
足元に近い黄色い電気浮子が、キリモリ状態で沈んだ。
ピシッと合せる。外れた!。

気を取り直し、再度仕掛を足元に。
また沈む。合せる。外れた!。
3度目に、やっと手応え有り。
「やったぜベービー」まずは1匹!。
2匹目を釣った時に、携帯電話が鳴り響き。
ハイ、ハイ、と携帯電話を耳に持って行くと。
ドラえもんさんの声だ。これから来るらしい。

この後も、アタリが続く。
まるで今夜の釣り場は、不妊症に陥ちた澱みに、排卵誘発剤を投与した如く、次々とメバルが湧いてくる騒ぎだ。

 赤色と黄色の浮子が
ドラえもんさん見参
午後8時半。
いつかアタリが消えて。
「松の木ばかりが まつじゃない
 今か今かと 気をもんで
 メバル待つのも まつのうち♪」
             (「まつの木小唄」)
と待つ身は切ないな〜。

午後9時、ドラえもんさんが暗闇から登場。
「もうアタリは消えましたよ」
と話すと、名人はゆったりと微笑み、まるで関係ない風に、淡々とノビタの隣りで準備を始めた。

その余裕、その気迫、その自信は、何処から湧いてくるのかしらん。
ノビタとは月とスッポンだ。
月とスッポンなら、月の方が良いに決まっているけど。
いつまで経っても月になれない(上達しない)ノビタは、
「桃栗三年 柿八年 だるまは九年 俺は一生」(武者小路実篤)
とあきらめるしかないのか。

そして名人、開始するや否や良形のメバルをゲット!。
もうやってられませんぞもし。

モンスターゲットbyドラえもんさん
午後9時半頃。
ノビタが、餌の付け替えをしていた時だった。
突然、圧力釜の蓋が、ブッ飛んだようなドラえもんさんの叫び声が、耳の穴に飛び込んできた。
「キターーーー!」
「これは大きい、これは〜アァァァ♪」
とエクスタシーに近い声が。
「これは尺を超えてますョ!」
闇の中で、化け物とガップリ4つに組んだドラえもんさん、体を大きく後ろにそらす、それは恍惚の姿勢のような。我慢しろ男だろ。まだ早い。
「キーーッ、キーーッ」
とリールが悲鳴を上げた。
3〜4分経過。

「バッシャ、バッシャ、バッシャ」
獲物が、足元の堤防際に浮上したのだ。
堤防の上から水面まで5メートル。タモ無し!。
後で教えてもらったのだが、ハリスは1.75。
髪の毛ほどの細い道糸である。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、引き抜きます」

ドラえもんさんの竿は、極細の中通し0.6号磯竿4.8メートル。
その竿が、”へ”の字を圧縮した形となり、屈折の限界に。
そのまま竿を持ち上げる。
獲物が水面を切った。
竿が重さに耐えられずグラグラ揺れて、
「ドボーン!」と獲物は再び海へ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
獲物は逃げていない。

ノビタは、ドラえもんさんの廻りを、ヒョコヒョコと飛んだり、跳ねたりしているだけ。
そして、
「かくべーさんがいれば、あのマグロでも掬えそうな大タモで、一発で仕留められるのに。あの大タモ、こんな時に使わないで、いつ使うのか」
と此所にいない”かくべーさん”に、やつあたりしていた。

獲物が走った。
ドラえもんさんが、魚に引かれて15メートルほど移動した。
そして2度目の引き上げを試みる。
そしてまた竿がグラグラ揺れて、

   
どうだ、まいったか!
「ドボーン」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、糸を掴んで上げます」
「大丈夫かな〜」
と不安になりながらも、名人なら引き抜けるような気がした。
それにしても5メートルの落差だぜ。

「・・・・・・・・」
一瞬、空気の流れ、時の流れ、人の呼吸も、全てが止まったような静寂が。
直後に、堤防の上で、ドタッ、バタッと乾いた音が響いて来た。

飛んで行く。
見ると針が、口に僅かに掛かっているだけ。
危機一髪だった。
名人が、顔じゅう皺にして笑っている。
そのスッキリした顔、その夢見心地の顔。
滅多にあるこっちゃないゾ。
「笑っていいとも!」

40cm超の堂々たるアイナメだった。
”汝の敵を誇りとすべし”に相応しい大物だ。
名人がボソッと曰く。
「これがメバルだったら」
コラッ!、欲をこいたらいかん、欲を。

納竿                         本日釣果
それから30分粘ったが、反応無し。
午後10時、ドラえもんさんは、もう結構と満ち足りた顔をして納竿だ。
そりゃそーだよ。
モンスター級のアイナメを釣ったんだもの。

これに比べれば、今日のノビタの小メバル5匹は、屁みたいなもん。
雲子にもならん。
せめて雲子くらいの大きさだったなら・・・。
またカミさんに馬鹿にされそうである。
帰りは、ドラえもんさんに家まで送ってもらった。

本日釣果
  小メバル  5匹

The End

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