メバルが釣れた日 波走る 憂鬱な天気 庭の草木がユラユラと風に揺れている。 空は雲で覆われ、まるで夕暮れのようだ。 ー雨が降るかもしれない。 海は風も強そうだ。 玉砕するかも。ー と気分は後退ぎみ。 「男は負けると分っていても、どうしても戦わねばならない時がある」(バイロン) ー玉砕がなんだ! と女々しい心臓を張り倒し、ロシュナンテに跨ったのである。 男のロマンを求めて 午後5時半、港に到着。 北東の風がビュービュー吹いていた。 風に逆らいながら、一歩、一歩、前に進む。 砂がピシピシ体に当たって弾けた。 ー止めようか? とまたまた思案橋ブルースが。 でもこんな日にこそ、男のロマンがあると、弱気になる心を押しのけ。 「思い込んだら命をかけて 釣るが男のド根性♪」 と先を急いだ。 堤防の先端で 吹きさらしの堤防に。 釣り侍が10人ほど、風に飛ばされそうになりながら竿を振っていた。 波しぶきが上がる先端には誰もいない。 ーよし! と意を決して先端に向かった。 尺メバルは、艱難とか、辛苦とか、危険とか、”とかとか”の味付けなしには釣れないのである。 磯2号5.3メートルの竿を1本出した。 餌は沖アミと、青イソメを用意してきたが、始めは沖アミでやることにした。 午後6時開始。 風はますます強くなってくる。 捨てられたビニール袋が、棒に絡まり風に吹かれてバタバタ震えていた。 波が、風に叩かれ幾重にも重なって湾内に押し寄せてくる。 電気浮子の紅い灯りが、風の向きとは逆の方向に流れて行く。 釣りを開始してから15分ほど経過。 電気浮子が、ズボッ!と海中に潜り。 そのまま黒々とした海中を、紅く染めながら弾丸のように没していく。 そして消えた。 道糸の弛みを取り、竿をふり上げた。 ーフイッシュ・オーーン♪ 始めの1匹は、20センチほどのメバル。 メバルは入る、とりあえずホッ。 逃げた魚は・・・ 午後6時40分。 風が幾分弱まったので、磯2号竿をもう1本追加した。 その準備を終わり釣り場に戻ると、置き竿にしていた竿の電気浮子が何処にも見当たらない。 ー・・・?! リールを巻き、竿を持ちエーイッ!と上げると。 黒々とした海中に、電気浮子の紅い灯りがボーッと沈んでいるのが見えた。 と・・・。 竿を持つ手に、ドドッ、ドドッ、ドドッと重厚な鼓動が。 ーこれは尺メバルだ! 一瞬、心臓が跳ねたが、仕掛けは海底に吸着したようにピクリともしない。 根に入られたのだ。 しばらく竿を堤防の上に放置し、敵が根から出るのを待ったのだが・・・。 そのまま10分ほど待ったあと、竿を力いっぱい持ち上げると。 その瞬間、運命の悪魔が笑った。 竿が跳ね上がり、仕掛けだけが空中に舞い上がったのである。 ーああ、天も泣け、地も叫べ。 尺メバルの夢は、一瞬にして消えてしまったのである。 納竿 このあと、20センチ前後のメバルを3匹と、豆アジ1匹、豆ムロ1匹を追加。 午後7時半以降はアタリがなくなる。 午後8時、納竿。 とうとう今日も尺メバルは、幻で終わった。ああ。 風が止み、小雨がポツリ、ポツリと空から落ちてきた。 薄暗い堤防に釣り人のヘッドランプが揺れている、一つ、2つ、3つ・・・・11こ。 その内の3人はエビ狙いのようだが、あとはみなアジ狙いか。 闇に覆われた道を、トボトボと帰ってきた。 「うしろすがたの しぐれてゆくか」 (山頭火) 本日釣果 メバル 18〜22センチ 4匹 豆アジ 1匹、豆ムロ 1匹 The END |
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