タコの船釣り初戦 黄金色の日の出 初体験 龍翔丸が開業以来、はじめてタコ釣りに出撃。 タコ釣り大好き人間のノビタが黙って見過ごすわけが無い。 ノビタもタコの船釣りは初めて、龍翔丸と同様(?)期待と不安の入り混じった出撃であったのだが・・・。 隣りはタコ釣り名人 青黒い海面に無数に沸き立つ小波、波の上で陽光がキラキラ乱反射している。 まだ陽射しは弱く、冷たい北風が身に応えた。 釣りを始めて1時間半。 船上ではもう何杯もタコが上がっているのに、ノビタは蚊帳の外だ。 と・・・。 隣りの名人が海面を見つめながら、真剣にタコ糸を手繰り寄せている。 アッと言う間にタコを船上に抜き上げた。 そして、こちらを見てニヤッと笑った。 水深が15メートルと浅いので引き上げる時間は短い、ただ引き上げて来る途中で逃げられるケースが多いので。 「悠々として、急げ!」である、タコを引き上げる時は慎重にかつ急がねばならない。 隣りの人は60を越していると思われるが、午前8時半の時点ですでに7杯も釣っていた。 名人なのである。 でも彼はノビタに、ああしろこうしろとは言わない。 決してえらぶらないのだ。 なぜノビタは釣れないのだろうとボヤクと、 「ときどきカラ合わせしてみな」 と教えてくれた。 そして名人も釣れなくなると、 「アタリが遠くなったね〜」 と、その度にノビタに聞こえるようにつぶやいている。 ノビタも思わず大きくうなずき返す。 このような釣り士が隣りだと落ち着いて釣りができるので、ホッとした気持ちになる。 ちょいと横路にそれる。 釣りをしていると、いらざるお節介をやいてくれる人に会う時がある。 こんなことがあった。 35〜40センチクラスの大型のサバを磯2号の細竿で釣っていた時、 「そんな細い竿じゃ駄目だ、もっと太い竿で釣らないと竿が折れるぞ」 と注意されたことがある。 細竿で釣りのダイゴミを味わっている身には、余計なお世話である。 寺田寅彦に言わせれば、そのような人は田舎人らしい。 寺田寅彦の随筆全集の中に『田園雑感』という随筆がある。 以下がその一部だ。 「田園の生活を避けたい第一の理由は、田舎の人のあまりに親切な事である。 人のする事を冷淡に見放しておいてくれないことである。 たとえば雨のふる日に傘をささないで往来を歩きたいと思ったとしても、なかなかそうはさせてくれない。 鼻の先に止まった蚊をそっとしておきたいと思っても、それは一通りの申し訳では許されない。 <中略> そこへ行くとさすがに都会の人の冷淡さと薄情さはサッパリしていて気持ちがいい。 大雨の中を頭からぬれひたって銀座通りを歩いていてもだれもとがめる人もなければ、よけいな心配をする人もいない。 万一受けた親切の償却も簡易な方法で行なわれる。 それだから一見閑静な田舎に住まっていては、とても一生懸命な自分の仕事に没頭しているわけにはいかない。 それには都会の『人間の砂漠』の中がいちばん都合がいい。 田舎では草も木も石も人間くさい呼吸をして四方から私に話しかけ私に取りすがるが、都会ではぎっしり詰まった満員電車の乗客でも川原の石ころどうしのように黙ってめいめいが自分の事を考えている。 そのおかげで私は電車の中で難解の書物をゆっくり落ち付いて読みふける事ができる。 ・・・・・・」 (岩波文庫『寺田寅彦随筆集』第一巻 小宮豊隆編208−209ページより)」 道に人が倒れていたらどうするんだ、とまた横槍をいれる人がいるかもしれないが、その時は心の衝動のままに行動すれば良い。 タコを入れるネット(網袋) タコ釣り仕掛け 家を出たのは午前4時45分。 まだ夜である。 群青の夜空に星が鋭く光っていた。 今シーズン一番の冷え込みらしく、寒い朝だった。 ロシュナンテに跨り夜の舗道を走っていると、冷気が服を貫(つらぬ)いて肌を刺してくる。 道糸(安価なロープでも可) 日立港に着くと。 龍翔丸が、船に装備している全てのランプを煌々と灯して迎えてくれた。 本日、タコ釣りに挑戦するのはノビタも含めて6人。 全員、船でタコを釣るのは初めて。 船でのタコ釣りは手釣りなので、それにそって仕掛けを用意しなくてはいけない。 仕掛け 第5埠頭にある日立フイッシングセンターサウス店には、タコの手釣りに必要な物が全て揃っえいるので、お金さえ用意してくれば揃えることができる。 自分で予め用意してくるのは、釣ったタコを持ち帰る時に必要な入れ物、それとタコ天仕掛けに繋がる道糸(ロープ)を素手で掴むと根掛かりした時に怪我をする可能性大なので、軍手(掴む側にゴムがついているものが良い)である。 いつものことながら・・・ 船が第5埠頭を離岸したのは定刻より15分早い午前5時45分。 真っ黒な海上を龍翔丸は、ドドドドド・・・・と雄たけびを上げ。 「ホクホク西ニ、針路ヲトレ!」と、千波万波を乗り越えて太平洋を突っ走しって行く。 東の空は、レモン色から青色にグラデーションに染まり、いつか水平線に黒々とぬか伏す雲の上から黄金色に輝く日が顔を出した。 現場に着いたのは、午前6時50分。 冷たい北風が吹いていた。 海は小さな波を無数に刻み、波は眩しく日の光を弾いている。 船の「プップー」の合図で、一斉に仕掛けを、ドボーン、ドボーン、ドボーン・・・と海に投入した。 いつものことながら、この瞬間、胸にデッカイ希望の雲が湧き上がるのだが・・・。 そして。 仕掛けを投入し数分後、大トモで初めの1杯が上がった。 この後、次々とタコが船上に。 ところがノビタには、10分、20分、30分、・・・、応答無し。 隣りの釣り士が、次々とタコを釣り上げていくのにだ。 「わずかばかりの運の悪さを 恨んだりして 人は哀しい 哀しいものですね」 (「愛燦燦」by美空ひばり) としだいに気が重くなってきた。 釣りはじめて1時間半。 名人も人なり、我も人なり。 求めよ、さらば与えられん。 と口の中でブツクサ、ブツクサ、お呪(まじな)いを唱えながら海底を小突いていた。 戦場 釣れた! と・・・。 海底から、 「チョト待テ!」 と微かにロープを引っ張られたような・・・。 ロープを掴んでいた右手を、大きく振り上げると。 グッと重さが。 この瞬間、頭上に巨大なビックリマークが突っ立った。 このあとはもう夢中で海底からロープを引き上げてきた。 水面に8本の足を広げたタコが浮上したのを確認して一気に船上へ引き上げた。 熱烈歓迎の初めの1杯は、800グラムほどの真タコだった。 このあと、入れ食いに近い状態で次々と釣れた。 まさに、 「今や風雲の時、我、風に乗り雲をつかみ天空に駆け上らん」 (「老人よ、花と散れ」by三浦朱門より) の勢いだった。 運が、とうとうノビタの方に廻ってきたのだ。 海底から引き上げて来る途中で逃がしたタコも多く。 何度、 −ああ。 とつぶやいたことか。 その度に喪失の痛みに耐え、落胆をリセットして、シャクリ続けたよ。 人生楽ありゃ苦もある。 このあと仕掛けを根掛かりさせロストしたのが運の尽きだったのか、以降まるで釣れなくなる。 沖上がり 午後1時、沖上がり。 隣りの名人は、23杯釣った。 それに比べたらノビタは、トホホホホ・・・であった。 後で知ったのだが隣りの名人は全くの素人だった。 要は釣り方の指導もできない素人だったのである。 そんな彼に・・・、このままでは終われない。 次回は20杯が目標だ。 「希望はずいぶんと嘘つきではあるけれど、 とにかく私たちを楽しい小経をへて、 人生の終わりまで連れて行ってくれる」 (ラ・ロシュコー) 本日釣果 真タコ 500グラム〜1.5キログラム 6杯 The END |
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