2008年12月29日(月)  日立沖
                 午前6時40分〜午後12時半
ノビタの釣り天国



      タコはノビタを待っていた♪

                               
       出撃を待つ龍翔丸
寒い朝
午前3時起床。
ー寒い!
居間に行き、石油ストーブに火をつけ。
電気湯沸かし器に水を入れ、スイッチを入れる。
顔を洗い、お叱呼をし。
腹が減っては戦はできぬと。
お餅を3個トースターで焼き、それに海苔を巻いて醤油を付けて食べた。
お腹が苦しいほどの満腹感となる。

船上用に、粉末の『お〜い お茶』に熱湯を注いだ湯を魔法瓶につめた。
同じお茶を、湯飲み茶碗に注いで飲みながら、パソコンで今日の天候と波浪予報を確認。
本日は、またとない釣り日和だった。

昨日までに”傾向と対策”の準備は完了、人事を尽くして天命を待つ心境だった。
そろそろかたさんが迎えに来るころと玄関を出た。
群青の夜空に、ガラスの破片のような星が空一杯に瞬いていた。
沈黙と闇が、団地を夜の底に沈めていた。
冷気が四方から押し寄せ、顔や手など露出した肌を突き刺す。

午前4時半、定刻だ。
闇に溶ける路の奥に、2つの白く丸い灯りが現われ、静かに近づいてきてノビタの前で停止した。
かたさんが、迎えに来てくれたのだ。
荷物を載せて車に乗り込むと、そこは別天地、まるで常夏の暖かさだった。

     
   ワイン色の夜明け
暁の海へ
午前5時。
漁火の放つ光のシャワーを浴びながら、静かに龍翔丸がその時を待っていた。
龍翔丸に乗り込もうとすると、
「おはよう!」
と風来坊さんに声をかけられる。
彼も今日、タコ釣りに初挑戦するそうな。
彼は元々は黒鯛釣り士なのだが、最近はポリシーをドブに捨てて、何でも来い士になったのだ。
船に乗ると、今度は先日、この龍翔丸のタコ釣りで知り合った筑波の若い人が声をかけてきた、彼も体中から火花を散らし、やる気満々だった。

午前5時35分、龍翔丸は日立港第5埠頭を離岸。
暁の闇を、タコが待つ戦場に向った。
無風。
海は波も穏やかだった。
やがて、東の空がピンク色に染まり。
”夢先案内人”に導かれて行くような、幻想的な夜明けが。
「二人の乗ったゴンドラが
 波も立てずに すべってゆきます
 朝の気配が 東の空をほんのりと
 ワインこぼした 色に 染めてゆく
 そんな そんな 夢を見ました♪」
    (『夢先案内人』by 山口百恵)

釣り開始
午前6時40分。
戦場に到着。
風は北西から空気の流れを感じる程度。
海は無数の細かい小波に刻まれていたが、ベタ凪である。
風が無いせいか寒さもさほど感じない。
                                        
釣り開始
「プップップー」
と、釣り開始の汽笛が鳴った。
「水深13メートルですよ」
のミタ船長の声を聞きながら。
一斉にまだどす黒い海上に、
「ドボーン、ドボーン、ドボーン・・・・・・」
と仕掛けを投入した。

投入して1分も経たないうちに、
「タコが上がったよ」
のミタ船長の声が。
続けて、あちらでも、こちらでもタコが船上に。

その時。
かたさんが、
「釣れたーーー!、このタコ天仕掛けで!」
と叫んだ。
その待望の一杯は、感無量の一杯だったはず。
何故ならば、そのタコ天仕掛けは自作であり、彼の英知と努力の結晶だったのだ。
彼が作成したタコ天の基盤は、彼の家の垣根から引き抜いた竹、針はエモン掛けの鋼をヤスリで研ぎそれを火にあぶり水をかけて強度を増したもの。
そして最後に、仕掛けの表は赤く裏は銀色のペンキを塗り仕上げた感動の一品だった。
そのオリジナルの仕掛けでタコを釣り上げたのである、おそらくかたさんの胸の中は、感涙の滂沱状態であったのでは。

悲劇の極致は喜劇である(チャップリン)
あっちこっちでタコが上がっている。
10分、20分、30分、40分、50分・・・。
ノビタと風来坊さんだけは、いつまでもお預け状態が続く。
まあこれがいつものパターンだと。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ、ガンバルジャンになり、シャクリ続けていた。

       
タコ釣り仕掛け
午前8時20分。
と仕掛けが根に掛かったような・・・。
このような感触は、海底が岩場なのでひっきりなしにある。
此処で慌てて仕掛けをハネ上げると、根にガッチリ仕掛けが食い込むこともあるので。
道糸を弛ませ、ちょっと間を空けて一気にハネ上げると。
ー・・・・・・?
仕掛けが倍以上の重さに。
「キターーーー」
と叫び、道糸を一気に手繰り寄せてくる。

やがてタコが海面に。
と・・・。
いつの間にかミタ船長がタモを持って側に。
この瞬間、ホッとし一瞬道糸をたるませてしまった。
途端に、「グッド・バーイ」とタコは仕掛けを離し海中深く。
「ちょっと待って
  プレイ・バック プレイ・バック
  馬鹿にしないでよ!」

ー男子一生の不覚!
「馬鹿の三寸、間抜けの二寸。ボケ、アホ、オタンコナス!」
と悔いても遅い。
「感触でタコだと分かったら、ガン、ガン、ガンと合わせを食らわせないとダメだ!」
と言いながら、ミタ船長もくやしそうに操舵室へ。
しばし呆然。
「こんなに別れが
 苦しいものなら
 二度と恋など
   したくはないわ♪」
  (『女の意地』by西田佐知子)
なんて歌ってる場合じゃない。

初めの一杯
すでにかたさんは3杯、ノビタはまだ0杯。
隣りの風来坊さんも0杯。
「どうも風来坊さんのボーズ病に感染したようだ」
と風来坊さんに嫌味を言ってやると。
「それはこっちが言うセリフだ」
と返されてしまった。

ー何故釣れないのか?
ひょっとすると、釣りたいという欲がタコ天仕掛けに伝播し、その殺気をタコが察しているのかもしれない。
と欲望を消すことに。
すなわち『柔』の精神だ。
「勝と思うな 思えば負けよ
 負けてもともと この胸の♪」
と、無欲の勝利で行くことに。

これが功を奏したか。
午前8時50分。
仕掛けをシャクっていた手に、ズシンとした重さが加わった。
根掛かりではない。
仕掛けは海底を離れている。
ガーンとおもいっきり道糸をシャクリ上げ、道糸をたぐり寄せる。
そして風来坊さんにタモ入れしてもらい、本日初めの1杯をゲット!
1.5キロくらいのまずまずサイズだった。
このあと、またタコを一杯追釣。
                                  
    絶好の釣り日和
ミタ船長の秘剣「ツバメ返し」
と・・・・。
右隣りにいるかたさんが、夢中になって道糸を手繰り寄せている。
向こう三軒両隣りの釣り侍が、
「まだかまだか」
と水面を凝視していた。
ミタ船長が、「マテマテ」と、おっとりタモで飛んできた。

と同時にタコが水面に浮上。
そしてかたさん、そのまま船上にゴボー抜きしようとすると。
タコが仕掛けから外れポチャーン!と海面に。
その刹那、ミタ船長の秘剣「ツバメ返し」が一閃。
目にも止まらぬ速さで、海中に逃げたタコをタモで掬ったのである。
「お見事!」
その迫真の技に、拍手喝采の雨アラシ。
タコをタモに入れたまま、ミタ船長がそのまま立ち去ろうとしたが。
「油断は禁物、必ずタモを使うべし」
と言いながらタコをかたさんへ返してくれた。

何たるサンタルチア
この時点で、かたさんは5杯。
ノビタは2杯とまだ差をつけられていた。
と一瞬、シャクっていた手にブレーキがかかった。
道糸を少し引いてみたが動かない。
ー根掛かりか?

そのころ海底では・・・。
「我輩はタコである。まだ名はない」
とつぶやきながらタコが餌を探し、岩間を散策していた。
と・・・。
なんという僥倖。
「棚からサンマ」
「タコも歩けばサンマに当たる」
「事実は小説より奇なり」
ナント、天から目の前にサンマが降ってきたのである。

”うれし涙の尻餅つき”とも知らずに、タコは何も考えずいきなりサンマに飛びついた。
すると、サンマが飛び上がる。
そうはさせまいと、タコはサンマを抱きながら寝技に持って行き、手や足で岩にしがみつく。
と体が浮いた。
ーそんな馬鹿な。
と思いつつも、天にも昇る心地良さ。
まるでゴンドラにでも乗っているような気分だ。
海底の景色がどんどん遠ざかり、そして天井が明るくなってくる。
ー俺はどうなるんだ?
このまま天国に昇って行くのか。

       
石とタコのダブル
船上のノビタ。
初め根掛かりと思ったが、道糸を強く引くと仕掛けが底を切った。
頭上に100ワットの電球が輝く。
「タコだ、重い!」
と思わず叫んだ。
「これは大ダコだ!」
と叫び、
「エンヤードット、エンヤードット♪」
と頭から汗を散水しながら、必死になって道糸を手繰って来る。

風来坊さんがタモを持ち、今か、今かと海をみつめていた。
そしてとうとう怪物が水面に。
途端に風来坊さんが大笑い、
「石とタコのダブルだよ」
海面を見ると、タコが今頃になって石を離し、タモの中でオロオロ逃げまどっている。
この瞬間、タコは天国ではなく地獄を見たのだ。
ーアーメン。

沖上がり
午後12時半、沖上がり。
今日の戦いは、まれにみる激戦であった。
ノビタは、空母五隻を撃沈(タコ5ハイ)したが、味方の戦艦三隻を大破(ロスト)。
風来坊さんは、空母四隻(タコ4ハイ)を撃沈したが、味方の戦艦六隻を大破(ロスト)。
ところがかたさんは、空母六隻(タコ6ハイ)を撃沈し、味方の戦艦1隻を大破(ロスト)した程度の損害ですんだ。
この差は、海底を読み取る勘の差であろうか。
ノビタは何年やっても海底を読むことが出来ない。−ああ。
筑波から来られた若い人も、ノビタと同じ5杯釣り上げたそうな。

「ありあまるほどの贅沢品をかかえこんでいるよりも、
生活に必要なものにこと欠かない方が、
あるいは巨万の富を擁して身動きできなくなるよりも、
心配ごとや苦労から逃れて、のびのびと生活する方が、どれほど幸福な生活であることか」
  (『ユートピア』by トマス・モア
       平井正穂訳 岩波文庫)
本日釣果
  真ダコ  600グラム〜2キロ   5ハイ
















The END
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