2010年12月21日(火) 午後4時~午後7時10分
           涸沼川(セイゴ釣り)
那珂湊 水温 
15・8度<潮>大潮 満潮 14:46 干潮 22:15
ノビタの釣り天国


         クロ助が消えた後で


                              最後の最後に女神が微笑んだ
久々の快挙
「今宵こそ
 大物手にした 太公望
 師走の寒さも 歳も忘れて」
と今日のノビタの釣果を、かみさんが詠む。
最近、かみさんは、短歌に懲りだし何でも句にする。
ー確かに!
久々の快挙であった。
今宵も、甘と辛、悦と苦、笑いと涙、濃縮100パーセントのドラマがあった。
だから釣りは止められません。

今にも泣きそうな鈍よりとした空。
まだ午後4時前だというのに薄暗く、川辺には誰もいなかった。
東から吹いてくる寒風がヒューヒュー耳を切り、パイプに結んだオレンジ色の工事用旗が、
風に吹かれてバタバタ乾いた音を立てていた。
まだ川は、下流から上流に向かって勢いよく流れていた。
「ダボーン、バシャバシャ」
と時折、魚が跳ねて飛沫が上がる。
姿は見えないが、ボラか。

暗くなるまで待って
午後4時。
釣り開始。
まだドラマの開幕までには間がある。
オードリー・ヘップバン主演の映画「暗くなるまで待って」の題名ではないが、
暗くならないと始まらないのである。
イヤホーンから流れてくる、
Mi-Keの『スワンの涙』を聞きながら、熱い缶コーヒーの蓋を開けた。
レインボーヴォイスと評された宇徳敬子の透き通る歌声が良い。
当時23歳、彼女はまだ女子大生の殻を、お尻にくっつけているような初々しさがあった。

        Mi-Ke スワンの涙

「君の素敵なブラック・コート
二人で歩く坂道に
こぼれるような 鐘の音
誰も知らない 二人の午後は
港が見える 教会の
小さな庭で お話しましょう

いつか君が見たいと云った
遠い北国の湖に
悲しい姿 スワンの涙
・・・・・・」





一喜一憂
午後4時半。
携帯から流れてくる音楽が、電話の呼び音に変わった。
かたさんの到着の報せだ。
今日も彼は、2キロメートルほど下流に陣取ったらしい。

分刻みで川辺は暮色騒然となっていく。
午後4時50分。
川はゆっくり下流から上流に流れていた。
突然、
「リリーン、リリーン、リリーン・・・」
と、2本出した竿の右側の鈴が鳴り、竿が川に突っ込みそうになった。
竿を掴んだが、
「フイッシュ・オフ!」
ー空振り!

と・・・。
落胆が乾く間もなく今度は、左側の竿の鈴が鳴った。
竿を掴み竿を立てると、
「フイッシュ・オン!」
そのままリールのハンドルを巻いて引き寄せる。
手応えがあるような、ないような軽さ。
堤防の上に転がり、銀色の魚体を躍らせたのは27~8センチのセイゴだった。

                                           
振り向くとクロ助がいた
招かれざる客
その時、
「美味そうだな」
と後ろから声が。
ーギョッ!
と一瞬、冷汗が背筋を走った。

振り向くと、ヘットランプの灯りに2つの目が闇の中で光っている。
ーナント、黒猫がそこに!
しばらくノビタの様子を伺い、危険人物ではないと見たのか。
「俺にくれないか?」
と言いながら近づいてきた。
駄目だと断ると、
「ケチだなお前は」
と言いながら、ノビタの隣りに座り込んだ。
ノビタを侮っている。
「コラッ!帰れ」
と怒鳴ったが、まるで動こうとしない。
厚かましい猫である。
名前を聞くと、クロ助と名乗った。
                                               
近づいて来た
「クロ助はホーム・レスか?」
と聞くと、
「ニャーッ!」
と猫語で、YesともNoともとれる返事をし、
竿先に付けた赤いランプを、ジッと見つめている。
これではまるで、ダモクレスの剣ではないか(危険な状態におかれている)。
魚を横取りされるのではないかと、落ち着かなかったが、
クロ助がいると淋しさがまぎれるので、そのまま追わずにいた。
それから1時間、まったくアタリなし。
とうとうクロ助は、痺れを切らして深い闇の中に消えて行った。

渋い釣り
午後5時55分。
川の流れが上流から下流に向かって流れはじめ、
「リリーン、リリーン」
と竿先に付けた赤ランプが大きく上下に踊るアタリがあるのだが、針掛かりしない。
餌だけ千切られている。
「雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ
 決シテイカラズ
 イツモシズカニ ワラッテイル」
を唱えながら我慢。
                                               
邪魔者は去った
なんとか午後6時半までに30センチ級を2匹追釣した。
かたさんから電話がきた。
ナント、この時点で彼は9匹釣っていた。
まだ上流から下流に流れる勢いは、我慢できる程度だ。
もう少し頑張ろう。

奇跡のようなフッコ!
午後7時10分。
川の下る勢いが増してきたところで、帰ることにした。
上流側の竿を片付けていると。
もう1本の竿の鈴が、
「リーン、リーン、リーン・・・」
と泣きながら竿先が上下にバウンドし、そのまま川に飛び込もうとしていた。

ー走った。
竿を掴み起こすと、ドドーン!と今までとは違う手応えが。
ゆっくりリールのハンドルを巻き、流れに逆らいながら敵を少しずつ寄せてくる。
ーと。
ドドドドーン!と怒涛の追撃が、一撃、二撃。
その度に竿が引き倒され、心臓に針が刺さるような痛みが走った。
ーバレルなよ、バレルなよ。
とうとう岸際まで来た。

          
足場が良い
途端、敵は怒髪天を突く勢いで水中深く潜った。
ー天よ我に味方して下され!
そして、強烈な引きに耐えながら、ジワジワと敵を浮上させ、
「南無八幡台菩薩!」
一気に、地上に引き抜いた。
ドタッ、ドタッ、ドタッと暴れる敵。
それを見た瞬間、
「ビバ・フッコ!」
と叫んだね。
まだ驚きは続く。
針を外そうとすると、ナント!針は外れていたのだ。
危機一髪、天国と地獄の一丁目一番地であった。

納竿
午後7時20分、撤退。
かたさんに報告すると、彼は11匹釣ったとのこと。
そうかいそうかいと、ノビタはニンマリ。
声には出さず、芸術は数ではない、と電話を切ってまたニンマリ。

本日釣果
セイゴ 27~30センチ 3匹
フッコ 52センチ  1匹

The END
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