2011年2月13日(日) 午後6時~午後11時半
           某堤防(カレイ釣り)
那珂湊 水温 
 8・4度<潮>若潮 満潮  0:58 干潮 18:12
ノビタの釣り天国


       モテない男の話し


                                       狙いが逸れて
魔子は何処に?
魔子(マコ)にモテたいから、何処に居るか教えてくれだと。
やめときな、君には無理だよ。
颯さんや、へー助さんや、アリケンさん、かたさんがモテモテだから?
俺だって、益荒猛男(ますらたけお)だと?
万国一天四海同胞、神は平等に恵みを与えるものだと?

ー甘い。
神は試練は与えるが、簡単に恵みは与えない。
どうせ涙を流すのが関の山、それで良ければ教えてやるよ。
店の名は、クラブ『高嶺の華』。
もちろん夜しか店は開かない、”夢は夜開く”ってわけさ。
場所は酒場通りから外れた港の中。
ネオンも看板もないけど、船の灯りがポツポツ、天気が良ければ星も拝める。

店のナンバーワンはやはり最近、旭日昇天の魔子(マコ)、
ナンバーツーは愛滑(アイナメ)、次が穴子(アナコ)、
そして芽春(メハル)、鈍子(ドンコ)と続く。
芽春(メハル)は寒いのが苦手なので、今は休眠中らしい。

魔子は誘ってもなかなか来ないけど、食いかたは育ちの違いが出るのか、シャープだったり、ソフトだったり。
愛滑はアマゾネス(女戦士)と異名をもつように、狂瀾怒涛の抵抗はエキサイテングだね、ホント。
穴子は男に弱いからすぐ誘いにのるけど、ヌルヌルと全身でカラミつくので厄介な奴さ。
鈍子は食い物に卑しいから、入れば飛びつくよ。
いずれにしろ、
魔子や愛滑は相手を選ぶから、どんなにテクニックが良くても、気にいらないけりゃ鼻も引っ掛けてくれないよ。
「アー・ユー・レデー?」

今夜も寒かった
午後6時。
釣り開始。
途中でかたさんと別れた、今日は戦場を異にしたのだ。
竿は3本出した、いつもは2本しか出さないので今日は臨戦態勢である。

うす闇が寄せてくる。
港は早々と眠りについてた。
冷たい北風が、パタパタパタと船上の旗を振り、船や街灯の光が海面にユラユラと尾を曳き、
外海の波が幾重も波紋となって湾奥に流れていく。
海騒ぐ、こんな日は期待できると思ったのだが・・・。
遠くにノビタと同じケモノヘンのヘッドランプが点々と6コ、彼らも魔子狙いか。
頭上に半分に裂けた月が輝き、その周囲には白く霞んだ星が散っていた。
ー寒かった。
乾いた空気が、キンコンカンと凍てついていた。

漆黒の海に、
「魔子ハイルカ
 イルナラ オウトウセヨ
 シキュウ オウトウセヨ」
と呼びかけたが。
竿先に付けた鈴は沈黙したままで、竿先の赤と青のランプは微動だにしない。
ーオウトウナシ

          
約38センチ!
はじめの1匹
午後6時50分。
《リリリーン、リリリーン、リリリーン・・・》
と鈴が静寂を破った。
右端、竿先の赤ランプが狂ったように跳ねている。
そのまま竿が前に倒れて行く。
あわてて竿を掴み起こすと、ガクガクガク・・・と派手な手応えが。
なだめながら足元まで引き寄せ、ヘッドランプで照らすと、やはり愛滑だった。
タモを使うかと一瞬迷ったが、そのままゴボウ抜き。
38センチ、まあまあ。

ところがこの後が続かない。
青い月の光を浴び、寒さに振るえながら、
鼻水をハンカチで吹き吹き、
決定的瞬間を待っていた。
1時間、2時間・・・。
想いの女を待つ夜には、
『アンチェインド・メロディ』がフイットする。

この歌は1936年にデビューした昔、昔の歌ながら、リーアン・ライムスが歌うと、まだ生まれたばかりのような新鮮さを感じる。
日本語訳は、毎度おなじみのKeiさんだ。


釣り人は帰って
いつか遠くに見えたヘッドランプの灯りが、2つに減っていた。
ポットに入れてきた熱いウーロンチャを啜ると、熱さが五臓六腑に染み渡った。
そしてまた1時間、2時間・・・。
今日は、魔子に逢わない間は帰らないつもりだった。
午後11時、かたさんから電話。
まだいるのかと、駐車場から。
彼はチビアイナメ3つと、30センチほどの魔子を一つ釣ったと言う。
小さいけど魔子は魔子である。
ーウラヤマシイ!
 今に見ていろぼくだって、その今は来るのだろうか?

最後の1匹
午後11時半。
突然、
《リリリーン、リリリーン、リリリーン・・・》
と待望の鈴が鳴った。
見ると、
左端の赤ランプが上下に揺れている。
そして止まった。
「・・・?」
とまた《リリリーン、リリリーン、リリリーン・・・》。
これは魔子のアタリかと。
期待で、胸が心悸亢進(しんきこうしん)したのだが・・・。

リーリングしている途中で、ガックン、ガックンの反撃。
ーああ。
これはアマゾネスだ。
陸でバタバタ跳ねたのは、34センチのアイナメだった。

精も根もつき、ここで納竿。
疲れはてて、足を引き摺りながら帰ってきた。
すでに午前0時を廻っていた。
途中、ポツリ、ポツリと、2人の釣り師がまだ釣りを続けていた。
まったくこの凍てつく夜に、気違い沙汰だ。
そんなに家に帰りたくないのかしらん。
空きっ腹がクークー泣いている。

「月のひかりの
    すき腹ふかく
        しみとほるなり」
  (山頭火)

本日釣
アイナメ 34~38センチ 2匹

The END
SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu