ノビタの釣り天国
 
2019年8月17日(土) 午後6時40分~午後11時
  常磐沖のイカ釣り



    まるでチャップリンの映画のような釣り


          スジイカなど45ハイ

















船着き場にて老いた釣り師には、昼の暑さは厳し過ぎる。
と、しばらく釣りを敬遠していたが。
最近、ネットでは夜のイカ釣りが好調らしい。
歌ではないが、夢は夜開くと、夜のイカに釣戦することに。
ところが、
「人生はクローズアップで見れば悲劇だがロングショットで見れば喜劇である」
今思えば。
このチャップリンの言葉を具現するような、予想外の不運が次々と待ち受けていたのだ。

まさかまさか
8月17日(土)。
昼下がり。
これでもかと言わんばかりの猛暑であった。
いつもの『つれたか丸』の船着き場に着いたのは、午後3時半。
陽はかんかん照り、無風。
立っているだけで、汗がだらだらと額から落ちてくる。
気温は36°を超えていた。

汗を流しながら、船の左舷中央に荷物を運んだ。
釣り座の右の先客が「暑いですね」
左の先客が、「今日は宜しくお願いします」
と挨拶してきた。
汗をタオルで拭きながらロッドキーパーを船縁に添え付け。
竿に電動リールを添え付け。
電動リール用充電器を船縁下の棚に置き。
今夜使う仕掛けを並べ。
釣りの準備が終わったのは、午後4時過ぎ。
そして。
イカを入れる桶を船首に取りに行く。
桶に書かれた文字が目に飛び込んできた。
ー岡重丸。
脳天を金づちでブン殴られたようなショック。

この時はまだ、この現実を認めたくなかった。
これは、岡重丸に桶を借りたのかもと思ったのだが。
念のため操舵室の横に書いてある船名を確認にいくと、やはり『岡重丸』であった。
ー乗る船を間違った!
船の後方に『つれたか丸』がすまし顔して浮かんでいるのが見えた。
ー茫然自失。
移動するしかないのだが、暑さですでに体力を大分消耗していた。
泣き笑いしながら、先ほど挨拶した先客に船を間違えたと話すと。
皆さん気の毒そうな顔をしながら、笑っていた。

『つれたか丸』の座席は全て埋まっていて、空いていたのは最悪の右舷ミヨシ(船首)だけ。
此処は海がうねると、もろにその影響を受け釣りにくい所だ。
ヨタヨタヨロヨロと荷物を『つれたか丸』に何回かに分け移動した。
『つれたか丸』に道具を引っ越し、釣りの準備が終わったのは、午後4時半。
体力の大半を消耗してしまったような。
午後4時半過ぎ、船長が船の後尾でこむさんや先客と話していた。
挨拶にいき、『岡重丸』に間違って乗ってしまったと話すと。
船長が、雰囲気が違うだろうと言うので。
確かに『つれたか丸』よりきれいだったけど。
船長が気合を入れて船を掃除したのだろうと思ったヨ。
と言うと、皆で大笑い。
                                           
浮きスッテ3号
航走1時間30分
午後5時、船は那珂湊港を出航。
今回の釣戦者は、俺も含め10人。
沖合は小波で海面が覆われていたが、おだやかであった。
航走1時間30分。
午後6時半に釣り場に着いた。
空も海も闇が混じり薄暗くなっていた。
海を渡る微風が心地良い。
暑くもなく、寒くもなく。
最高のシュチュエーションだ。
パラシュートアンカーを海に浮かべ、釣りを開始したのは午後6時45分。
スピーカーから船長の開始の指示。
「水深270メートル。まず海面から70メートル下を探って下さい」
仕掛けは浮きスッテ3号の5本針、錘は80号。

     
海は穏やかだった
電動リール事件
電動リールのロックを外し、道糸(PE3号)を放出する。
水深メーターが10メートル、20メートル、30メートル・・・。
と・・・。
道糸の出がギギギーと鈍くなり水深メーター55メートルでストップ。
海面下70メートルまで仕掛けが届かない。
電動リールを見ると、道糸が出つくしていた。

トッポジージョが、
「ユーザ・ミ・デイッチ・マイ!」
英語で「何ってこったい!」
と叫んでいたヨ。
またもや激しい意気の阻喪(そそう)。
闘争力のメーターが、ほとんど0パーセント近くまで落ちてしまった。
しかたがないので、仕掛けを海面下55メートルの位置で、
「カーモン・ベービー・アメリカ
と、やけくそになって竿をシャクった。


                                               
鉛筆サイズ
釣れたのは
と・・・。
微弱な信号が、竿を握る手に一瞬伝わってきた。
半信半疑で電動リールの巻き上げをオン。
船上に釣り上げられたのは、20センチたらずの鉛筆のようなイカ。
ーこれはたまたまか?
ところが、隣りの釣り師も同じサイズを釣り上げる。
他の釣り師もみんな同じサイズ。
ーああ
こんな小さいイカだなんて予想もしていなかったヨ。
「人の希望は初め漠然として大きく、後(のち)漸く小さく確実になるならんなり」
(by 正岡子規)
俺は現実を認めざるをえなかった。

船長がスピーカーで叫んでいた。
「今夜は月夜だ!アアア」
月夜にはイカが釣れないのは、常識。
真上にまん丸い銀の皿のような月が煌々と照っていた。
午後11時沖上がり。
今夜のイカ釣りは、まるでチャップリンの映画ようであったなもし。

本日釣果
イカ 20センチ前後 45ハイ

The END