1998年6月  小笠原諸島          

        1998年6月

超一級の釣り場へ
6月上旬の小笠原はすでに真夏だった。
頭から波飛沫をかぶりドブ鼠になっていたけど、全く気にならない。
舟に乗っているのはノビタと、その仲間である名古屋のドンガバチョ、滋賀県若狭湾の海賊トラヒゲと、船長だけだった。



東京の竹芝桟橋から小笠原丸で25時間30分、父島に着いたのはほんの1時間ほど前。
宿に荷物を放り投げ、昼飯をかけこんで、かっぽれ丸に飛び乗り。
一路、小笠原でも超一級の磯に向かって突っ走しった。
太平洋、天気晴朗なれど波高し。
気分はもうひょっこりひょうたん島である。
  
  小笠原丸                       超一級の磯(平根磯)

                         



ひょっこりひょうたん島の歌

「波をチャプチャプチャプチャプ
   かきわけて
 丸い地球の水平線に
   何かがきっと待っている

 苦しいこともあるだろさ
 悲しいこともあるだろさ
 だけど おいらは くじけない
 進め〜 ひょっこりひょうたん島
      ひょっこりひょうたん島♪」

進め〜、進め〜♪、と舟に乗って約1時間。
目の前にひょっこりひょうたん島風の小島が見えて来た。

釣りのオーガスタ
フライパンをひっくり返したような小島。
これが小笠原でも超一級の磯である平根磯だ。

  
   超一級の磯
ダップンこ、ダップンこと波に洗われるその足元から海底まで、凡そ80メートル。
その海底から突き出た山の頂きの縦の長さは約100メートル。
幅は5〜6メートル、水面からの高さは1〜2メートル。

周囲の海底は、5〜10メートルの凹凸のある沈み根地帯になっていた。

かっぽれ丸は、その磯から50メートルほどまで近ずき、舟を停止した。
船長の合図で全員が待ってましたとばかりに仕掛をドボン、ドボン、ドボンと海に投入する。
道糸はPEライン10号、重り100号、そしてハリス30号の1本針に冷凍サンマを半分に切って付けただけ。
極めてシンプル、極めて原始的、極めて稚拙、極めて剛力な仕掛だった。

その仕掛が、ビューーと海底に向かって落ちて行き、ドーンと底を叩く。
と同時にラインの弛みを取り。

その後は、絶えず重りが凹凸の上を叩くようにリールを調整した。
この調整を誤ると、アッと言う間に根掛かりし、一巻の終わりなのだ。

すなわち小心は話しの他だが、細心と、大胆を合わせ持った神経で攻めるのが、根のある底釣りの鉄則なのだ。

日本で2番目
「夏うらら ひねもす のたり くたりかな」
(正しくは、春うらら・・)
かっぽれ丸は、のたりくたりと波間に浮いていた。
ドンガバチョと、舟に弱い海賊トラヒゲの快声が、青い空と海を跳ねている。

  
 熱闘小笠原
脳の全神経が、しだいにたるんできた時。
何の前ぶれもなく、ドーーンと竿が張り倒され。
竿尻がハネ上がった。
雷の直撃を受けたような一撃だった。
そのまま竿先は、水面に突っ込んで行く。



竿は、持ち上がらない。
ひたすら引きに耐えるだけ。
竿は、瞬間接着剤アロンアルファで、舟べりに固定されたようになった。
この時、ノビタの全身からは、バチ、バチ、バチと闘志の火花が飛び散っていたと思う。
                         
アライソハタです
いつの間にか船長が側に、そして竿が奪われ、主客が逆転し。
(魚が根に潜ったら一貫の終わりなので、止む無しだったが・・・)
1分ほど経過したか、
「大丈夫」
と竿は戻された。
危険な状態を脱したらしい。

けど、一番美味しい部分は、船長に食べられた後だった。
この後は、道糸とハリスの剛力を頼りに、100メートルは出ている道糸を、エンヤードット、エンヤードット♪と引き上げるだけだった。

そして、とうとう。
真黒い鉄の鎧を着たような、みるからに精悍な面構えの魚が、船上に上がった。

体長は52cm、小笠原では小物。
その魚を見た船長が、
「これは凄い、日本で2番目のアライソハタだ!」
と叫んでいる。
世界でも4番目に捕獲されたことになるらしい。

        
幻の魚(アライソハタ)








この時、頭の中に閃いたのは。
小笠原発のニュースが、新聞や天下のNHKに発信され、明日の朝、目が覚めたらスポットライトを浴びる有名人。
あれから4年、結局何も起こらなかった。

                               
船長と奥さん
海賊トラヒゲの熱闘
行雲流水の如く、全ては過ぎ去って行く。
諸行無常、       是生滅法
(しょぎょう むじょう)(ぜしょう めっぽう)
生滅滅己、       寂滅為楽
(しょうめつ めつい)(じゃくめつ ついらく)

   
トラヒゲの闘い
でも小笠原の記憶は、脳皮の襞(ひだ)で、いつまでも星の様に瞬いていた。
その星に、焦点を当てると。
風にパタパタとたなびくかっぽれ丸の旗や、仲間の歓声が蘇ってくる。

「キターー!」
海賊トラヒゲの叫び声が、静けさを破った。見ると。
竿先が海面を突き刺し、そのまま人も竿も固まっている。
ブレーキの限界を越える剛力に。
リールからジーッ、ジーーッ、ジーーッと道糸が飛び出し。

                                 
固まっている
竿は満月のままピクリともしない。
化け物は舟の下をくぐって、反対側に走ったのだ。
「竿を立てろーー!」
船長がどなッているが。
トラヒゲの背中には、大きく”無理”の字が。
道糸はもう残り少ない。

と「バレターー??」
トラヒゲの悲鳴が上がった。
そしてまた。
「ワォーー、いたーー!」
化け物が、180度向きを変えたのだ。
今度はトラヒゲの正面にドンドン道糸が伸びて行く。
もう化け物の、なすがままだ。
絵に描いたような悪戦と苦闘である。

 
フエフキダイ
そして、
「ビッシーーーーーーー!!!」
道糸が、金属音を発して切れた。
誰もが予想し、望まなかった結末が。
道糸が、プレッシャーから解き放たれ、むなしく水面を漂っていた。

トラヒゲは出て行く道糸を止めようとして、指に火傷をおおった。
ギャラリー全員が溜め息をつき、しばし声も出なかった。

終わりに
此所までが、まだ鮮明に残る記憶だった。
この後、誰が何を何匹釣ったのか、記憶は霞んで形にならない。
ただ写真が、思い出を断片的に語るだけだ。
ノビタは、これで小笠原に2度来た事になる。
そして、
「我来タリ 我見タリ 我勝テリ」
              (シーザー)
と満足したが。
トラヒゲが逃がした化け物に未練が残り。
いつかまたと思うのだが、浮世のしがらみが纏いつき。
来ること叶わず、時だけが過ぎて行く。


      
モロコ             化け物と闘う









   
ウメイロモドキ(絶品の食味)                作者









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