2001年 6月9日(土)常盤の海                   
      暁の攻防戦
                                          夜が明けた...その時
遅刻
午後10時に現場に着いた。
暗い堤防に、ヘッドランプを付けた先客が一人。
「遅い!」
と、待ちくたびれた声が飛んで来た。
先客はOだった。
午後9時に来たらしい。

携帯電話がないこともあり、ノビタはあまり釣友と一緒には釣りに行かないが。
今夜は、集魚灯のないOに付き合った。

堤防の上を、絶えず北東の風が吹き抜け、北側の海は波がザブン、ザブンと騒々しい。

パンドラの箱(Pandora’S box)
Oが、早く灯り(集魚灯)を、と喚いている。
そりゃそうだ。
夜釣りに灯り無しでは、この時期アジはほとんど見込みがない。

ガスランタンを紙バッグから取り出し。
北風を体で防ぎガスのバルブを回すと、シューとガスが吹き出した。
点火スイッチを押す。
カチ、カチ、カチ...?、カチ、カチ....?。
何度もスイッチを押したが、点火せず。

ガスの芯を見ると。
芯を覆う布(マントル)が崩壊し、半分ない。
残っている布を指で触ると、パラパラと全て散ってしまった。
「ガーーーーン!」
予備の布(マントル)は、持っていない。
脳天に雷が落ちた様な衝撃だ。
髑髏(どくろ)マークが、ノビタの頭上で笑っている。
とうとう、「パンドラの箱」を開けてしまったか。

パンドラは、ギリシャ神話に出てくるゼウスが遣わした女、ありとあらゆる災難、苦悩が詰まっている箱を持っている。

Oぼやく
10メートルほど離れた所にいるOに、大声で呼びかけた。
「ランタンに火がつかなーーーーーい!」
「嘘だろーーう!」
Oが信じられないと、やって来た。
Oをあきらめさせる様に、またカチカチカチとランタンのスイッチを押して見せる。
Oがぼやく、
「何で、家で試して来ないんだよ!」

うんじゃら、うんじゃら....と、壊れた録音機の様に、うらみ節をがなっていた。
Oが言うセリフを、ノビタが代って言うしかない。
「よくある話しさ、しょうがないよ」
と慰めて一応、ピリオドを打ったが。
この後も、思い出しては繰り返しぼやくこと。

   
荒しの後の静けさ
釣れない
磯2号、5.3メートル1本をアジ釣り専用とし、小アジが釣れたらそれを餌にイカを狙う計画であったが。
その餌が釣れない。

しかたがないので、Oがスーパーで買ってきた豆アジをもらい、それを餌にイカ用の竿も1本出した。
Oもアジ釣り用1本、イカ釣り用1本の計2本で勝負している。
Oとノビタの電気浮子が、月光を浴びて光る白い海に、赤い光りを放って漂っている。

午前0時頃までにOは3匹のアジをゲットしたが、ノビタはまだ”ゼロ”。

信じられない
突然Oが、
「ウヒョーーー、アタリだ、アタリだ♪」
と、ノビタの焦りを煽る様に、弾んだ声を上げた。

ほとんど同時に、ノビタの電気浮子がスパッと海上から消えた。
焦燥の雲間から、太陽が顔を出したのだ。
心蔵が、ドドーーンと激しく太鼓を打ち鳴らす。
Oに負けない大声を張り上げ、
「キターーー♪」
と叫び、竿を掴んだ。
グイ、グイと伝わってくる引きは、大物の手応え。
「こりゃデカイ、こりゃデカイ、デカ、デカ、だ〜♪」
Oに聞かせる様に、デカイを乱発。

アジの口は切れやすい、妥協せず、かつ繊細に、ヤッタ、トッタを繰り返し堤防際に引き寄せる。
隣りのOが、アジを堤防に引き上げた。
続けてノビタも、獲物を水面からゴボウ抜き。
獲物が堤防の上に転がった途端、
「グーーグーーグーー」
と、無念のうめき声が...。

「信じられない ことばかり あるの♪」(ピンクレデイ「UFO」)
念の為、獲物に近ずき、その白い姿を見ると。
金色、銀色、赤い色にキラキラと変化する丸い目が、うらめしそうに宙を睨んでいる。
紛れも無い石持じゃ!。
サイズは27センチ。
Oには見せたくないと、慌てて海水の入ったバケツに放り込んだが。

来なくてもいいのにOがやって来た。
そして案の上、大笑い。
「サビキで石持を釣った何て、俺は恥ずかしくてとても人には言えないよ」
憎ったらしい言葉で、グサッと小さい胸を突き刺されたが。
何を言わんや、川端柳さ。
今夜やっと釣り上げた唯一の魚チャン。
バケツの中で泳ぐ石持を、愛情パッパッで何度も眺めた。

Oだけ釣れる
また空っぽの時が流れて行く。
Oが釣り上げる度に、お頭で電卓をはじく。
...4匹、5匹、6匹、7匹。
もう挽回は無理か。
でも朝4時〜5時のゴールデンタイムがある。
「霧の摩周湖」の様な漠然とした期待だったが.....。
                                    
       ヤリイカも釣れた
Oにもゴールデンタイムを話したが、半信半疑の顔をしていた。

頑張れ石持
唯一の獲物が気になり、バケツの中を覗くと。
石持がバケツの底にコテッと横たわり、ハフハフハフと苦しそうに喘いでいた。
危篤状態だ。

ハフハフハフが、遺言を言っている様にも見える。
「馬鹿、死ぬな、生きるんだ、ガンバレ!」
緊急処置、緊急処置と慌てて。
バケツの海水を入れ替えた。
すると、じっとバケツの底で横たわっていた石持が、フワフワと起上り。
ゆっくりバケツの中を泳ぎはじめた。
どうやら1命をとりとめたらしい。
ホッ。
要は、暇なんじゃ!。

ゴルールデン.タイム突入!
午前4時前にイカ釣り用の竿を引き上げ、イカ天仕掛けをアジサビキに交換した。
昨夜一晩の焦燥を、朝拙めに吹き飛ばしたい。
竿2本、全て餌を交換し敵の来襲を待ちかまえる。
日本連合艦隊司令長官 東郷平八郎の砲撃合図の右手が下がった。
「皇国の興廃、この一戦に有り、各自一層奮励努力せよ!」

突然、静けさを破るOの馬鹿でかい声、
「キタ、キタ、キタ、キタ〜〜♪」
竿を掴んで、お得意の”エンヤドット♪”の大漁の舞い。

ノビタの2本の竿は、シーーン。
まだか、まだか。
何もすることが無かったが、目玉だけはたえず動かしていた。
前ぶれもなく、いきなり。
右側の浮子が、ズボッと海中に没した。
「オンリャーーーーー」
竿をひったくり、大きくゆっくり合せる。
手応えアリ!。
リールを巻く。
左側の浮子を見ながら、右の竿のリールを巻いて来ると。
今度は左側の浮子が海中にズボッ!。
すぐ左側の竿が”く”の字に曲り、ギューン、ギューーンと引っ張られ、そのまま動かなくなった。
焦る、焦る。
右の竿のリールを、無茶苦茶高速回転。
      
本日釣果
それ行けドンドン
右の竿に来たのは、ダブル。
その竿を堤防の上に放り投げ、左側の竿に飛びつく。
クイーン、クイーン、クイーーンと小気味良い引き。
問答無用と!。
強引に、容赦無く、性急にリールを巻いて来る。
水面から引き上げた瞬間、1匹がポチャンと落下したが、トリプルで堤防の上に転がった。

すぐ餌を付け替えて、仕掛けを40〜50メートルほど沖に返す。
竿を元の様に、2本並べ終ると。
同時に、浮子が海中にズボッ、ズボッと消し込む。
一晩中くすぶり続けていた導火線が、やっとパチパチと点火し、砲弾が轟音を上げて爆発した。
爆発は30分ほど続いた。

ノビタの方は切れ目無くアジをゲットしたが。
Oの方は、始めにきた一荷に仕掛けをダンゴにされたり。
その後、ダブルで来たアジの大きい方を、ポチ〜ャンと海に落下させたり。
逃がした方が大きかったと言うのだが...。
あまり成績は宜しくなかったようだ。
ご愁傷さま。

閉幕の章
午前4時45分、急に海が静かになる。
アジの軍隊は、犯すこと火の如く、速きこと風の如く消え去った。
この暁の攻防戦に、残っていた全エネルギーを使い果たす。
Oも満ち足りた顔と、疲れた顔をミックスした様な顔をして、
「止めよう!」
と、片付けを始めた。

午前5時半、現場を後にした。
充分満たされた。
ランタンの灯りはつかなかったが。
「パンドラの箱」は開いていなかったようだ。
昨夜一晩の焦燥が、朝拙めに全て雲散霧消した。
帰途、出遅れた釣り師達とポツリポツリと行き交う。
もう釣れないのでは....。

  釣果
     アジ 17〜24センチ  19匹
     石持  27センチ     1匹
     ヤリイカ   10センチ   1匹
 
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