1999年 12月12日(日)東海某堤防                 

          一瞬の光芒


                                              黄金タイム!
朝拙めは黄金の一時
朝5時半、夜明前の港はまだ眠りから覚めていない。
フェンスの下の穴を抜けると、そこは工事中の泥濘(ぬかるみ)の地だ。
U字型のドームを渡った途端に、片足を水溜りに取られた。
冷たい水がズックから沁みてきて思わず悪寒が走る。

夜明けが、秒刻みで近ずいていた。
先を歩く2人は、白い息を吐きながら重い荷物も苦にならないように、キャリングケースをガラガラ引きながら足早に歩を進めている。
ノビタも精一杯急いでいるのだが、その距離はちじまらない。
朝拙めの一瞬、この時刻を見逃したら、何のためにこんなに朝早く出てきたのか、分からなくなるのだ。

危険な畦道
真っ直ぐ伸びた堤防を進むと、人の背丈分ほど低くなった段差がある。
そこを降りると田んぼのような水溜まりがある。
まだ暗いこの時間に、此所を渡るのは余程注意が必要だ。
田んぼに沿って幅15センチほどの畦道が伸びている。
この畦道を踏み誤ると、途端に溜め池に落ち、滑って転んで全身水浸しになってしまう。

実際の距離は50メートルほどだが、その数倍の長さに感じるのはノビタだけではないと思う。

「おう終わったぞ!」
先を進んでいた一人が、ほっとした声を上げた。
遅れてノビタも渡り切った。

   
    釣り人いまだ多し
アジ入れ食いか?
渡り切った所から、釣りをしている先客の列が続く。
駐車場にはそれほど車が止まっていなかったのに、これはどうしたことか?
入れそうなスペースはない、1人、2人、3人、4人...やっと隙間を見つけ、荷物を降ろした。

昨日、村越名人に教わった事を試してみたくて、今日も来た。
竿や、仕掛けを準備している間に西の空が、橙色に染まってくる。

竿は2本。
1本は浮子付きの投げサビキ、1本は浮子なしのサビキ仕掛け。
浮子付きの方には沖アミをつけ、サビキだけの竿には餌無しで足元に垂らす。
仕掛けを海に投入して間もなく、2本の竿が同時にお辞儀を始めた。
戦闘開始だ。
右も左も釣り人達の竿に、次々に豆アジが掛かる。
この段階では仕掛けの種類はほとんど関係なかった。

アジが消えた
アジとの攻防は、一瞬である。
ほんの一寸よそ見をしたり、用たし何ぞをしていると、後で悔やんでも悔やみきれない結末を迎えてしまう。
夢、夢、油断が出来ない。
目の前を一瞬何かが横切ったような、居合い抜きのような瞬間を、いかにものにするか。
その時間はせいぜい10分。
                                             
本日釣果
今日も油断した。
魚が狂い、釣り人が輝く時間、それがいつまでも続くような気がして、釣り方を誤まったのだ。
この時間帯は餌など不用なのに、あせりながらサビキ針6本にオキアミをつけていると、いつの間にかアジは何処かに消えていた。

竿2本を二降り(ふたふり)しただろうか。
犬が美味しい肉に食らいつこうとした瞬間に肉が消え、口を開けたまま茫然としている様(さま)に似ている。
これからという時に魚は消へ、気合の行き場を失ったのだ。
海の底からアジの歌が聞こえてくる。
「また逢う日まで〜 逢える時まで〜♪
        別れのそのわけは話たくな〜い♪」
Getした豆アジは11匹。

この後は、村越流投げサビキも功を奏せず、むなしい時間だけが過ぎ去って行く。
両隣りの人達も、それぞれ理由は異なるが、ノビタと同様の結末を迎えたようだ。
この後、1時間半粘るも全く反応無し。
帰り仕度をして堤防を後にしたのは、午前7時半だった。
辛うじて豆アジをGetした人達は、それを餌にヒラメや、マトウダイを狙っていたようだがノビタがいた時間帯では、その姿を見ることはなかった。


名人登場
駐車場南端の出入り口に来ると、自転車を横倒しにして釣り師が穴から出て来た。
自転車を起こした途端に、景気の良い声を浴びせられる。

        
工事中の某堤防
「お〜ぃ、どうしたー!」
村越名人が、ニコニコしながら立っている。
敗北に近い釣果を報告すると、
「これから俺とやろうよ、一人じゃ寂しいからよ〜!」
とてもそんな気力は残っていなかったので辞退すると、
「そうけー」
の言葉を残して、前と後ろに積んだ荷物で、つぶれそうな自転車を、その半分しかないような体でギイー、ギイー、ガタガタと引いて行った。



陽光をさんさんと浴びる駐車場は、いつか満車状態になっていた。
風を切りながらバイクを走らせる、今朝は痛いほどの風だったが、今は快く体に砕け散っていく。
期待ハズレだったが、気分は晴朗である。

場所のせいだったのか、それとも今日に限って魚影が薄かったのか。
頭の中ではまだ戦闘の余韻が残っていた。
次回は満を期して再チャレンジを誓う。
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