2003年12月30日(火)日立沖
   午前6時半〜午後1時        

     女神が大接近しただけ


出港                          生き餌到着
午前6時5分、まだ闇に覆われた第5埠頭。
出港前の龍翔丸が慌ただしくなった。
ヒラメ釣りの餌である生きイワシが、水槽に入れられトラックで到着したのだ。
この時間帯は、最も冷え込みが厳しい。
その寒さを吹き飛ばす熱気が、船内に漂っていた。

  
その一瞬を待つ
真ソイ上がる
午前6時半、龍翔丸は日の出前の黎明の海に浮かんだ。
風もなく、波も穏やかだ。
1時間経過、潮が流れないせいか、船上は11人の客が、何処かに消えたかのような静けさに包まれる。
午前8時ころ、どよめきが起こった。
45センチほどの真ソイが、ミヨシで上がったのだ。
その後、再び船に沈黙が。

                             
 銀座の賑わい
本日第1号のヒラメ
午前9時頃、”ヒラメ上がる”の情報が届いたのか。
動燃の前に龍翔丸が走った。
次々と他の遊漁船も集まって来て、全部で15艘が動燃前の海上に集結。

そして、本日第1号の60センチ級ヒラメが、ノビタの一人置いた右隣りで上がった。
船上が活気ついたのも束の間、その後はまたまた沈黙。
目の前に並ぶ遊漁船の釣り客にも、全く動きがなく。
どの船の上にも、忍、忍、忍、忍、忍・・・の一文字が、浮かんで見える。

 ジョナサンが
カモメのジョナサン
青い海、青い空、白い雲、絵に描いたようなポカポカ陽気の太平洋。
いつか睡魔に襲われ、現実と幻想の境をさ迷っていた。
空を見上げると、カモメのジョナサンが。

ノビタを見下ろし、同類相憐れむと見たか、
「ノビタお前もか」
と目の前の海に。
「此所しばらく不漁続きで、3日ほど胃袋に何も入っちゃおらんのだ、餌を分けてくれんかい」
と話しかけてきた。
                                 
目の前に
ノビタが答えると、
「駄目だと、あてもないヒラメなんぞまぶるより、視力も体力も衰え、餌を獲るのもままらないジョナサンを助けた方が良いのと違うか?」
こちらにも事情あると答える。

「正月用にカミさんに頼まれたって?。お前も終わりだな。”愛は代償を求めない”もの。二人の愛は冷めてると違うか」
ブツブツ答えた。

ジョナサンの消えた海

ジョナサンが叫んだ。
「なに?、家にいるとカミさんが、身体障害者のノビタを、五体満足並みにこき使う?。いつ海に落てもおかしくない身体障害者のノビタに、ヒラメを釣って来いだと?。生命保険も掛けてあるってか?、危ない、危ない」

「夜寝る時は、くれぐれも用心しろ。心不全なんて事で昇天するな。念のため遺言も用意しておけ。さらばじゃ」
そしてジョナサンは、目の前から消えてしまった。
                              
しだいにうねりが
本日第2号
午前10時を過ぎた頃から風が吹き始め、海には白波が立ち、うねりも出て来た。
船は右に左に揺れながら走り、何箇所かポイントを変え、常陸那珂港の沖堤防に接近した。

この場所を新たな漁場として開始してから、5分ほど経過したか。
突然、船上に興奮のどよめきが。
ノビタの一人置いた左隣りの竿が、宙に弧を描いているではないか。
見ると、竿全体がブルブルブル震え、ドドーン、ドドーンと竿先が海面に張り倒され。
ヤッタリ、トッタリの激戦が続き。
とうとう70センチほどの大ヒラメが、タモに納まった。

   
竿先が海に
本日第3号
それから5分も経たないうちに、今度はノビタの右隣りの竿が、弧を描いた。
竿先が何度も水面下に突っ込み。
力闘につぐ力闘に、数分後、やっと終止符が打たれ、大ヒラメが上がった。

船板に、ドタドタと自分の生命を叩きつけていたヒラメも、海水に満たされた樽に入れられると、大きくあえぎながら次第におとなしくなって行った。

                               
お尻を齧られ絶命
大接近しただけ
それから10分ほど経過したか。
コツンと微かな異変が、手元に。
戸の隙間から、光りが射し込んだようなときめきが全身を駆け抜けた。
その瞬間、竿先を海中に突っ込み。
全神経を氷のように張り詰め、竿を握った。

1分、2分、3分・・・手元に伝わって来るのは、60号の錘が、海底の岩盤を叩くゴツゴツとした震動だけだった。

仕掛を回収すると、イワシはお尻をガブリと齧られ、ショックで既に絶命していた。
しばらく呆然と死んだイワシを見つめていた。
「天は平等にチャンスを与えたもう、問題はチャンスを物にするか、しないかである」
午後1時、沖上がり。
                         
   常陸那珂港沖堤防
港に迎に来たカミさに報告をすると、
「残念だったわね〜」
と天使のような微笑みを。
何処からか、カモメのジョナサンの声が聞こえて来た。
「残念だったのは、お前が・・・・からだぞ。間違えるな」
胸の中を、木枯らしが吹き抜けて行く。


The End
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