冬の釣りは修行さ 先客有り 遠くにある薄墨に染まった堤防に、小さい灯りがチラチラしている。 どうやら先客がいるらしい。 夜空には千切れた白い雲が3つ4つ、星はまだ数えるしか表われていない。 半分に欠けた月が、真上にボーッと白く霞んでいる。 風はわずかに西から吹いていた。 寒さが緩んでいるせいか、歩いていると体が汗ばむようだ。 堤防には一人しかいなかった。 ひょっとすると彼か?、と黒いシルエットに近ずき名前を呼んでみた。 闇の中では人物を特定しにくい、それなりに小さい勇気が必要だ。 期待通りの返事がかえって来た。 「アレーッ!遅いじゃないですか」 かくべーさんだ。間違わずに済みホッとする。 新堤防のカレイは? かくべーさんは今朝、新堤防に行き、5時半から午後3時までカレイを狙ったが玉砕したとのこと。 そこでカレイ専門の千葉フクさんにも会ったらしい。 総勢20人近い釣り人がいたそうだが、全員カレイは何処に?だったようだ。 今夜は活性が? かくべーさんの足元には、いつもの事ながら、マグロでも掬えるような大タモが用意されていた。 この夢の大きさ、気迫には、毎度のことながら圧倒されてしまう。 本当にこの人は、良い意味での子供のような気がする。 コンビニの空ビニール袋しか持って来ないノビタは、始めから彼とは勝負にならないのかも。 かくべーさんは既に此所で、ドンコ2匹とカサゴを釣ったとのこと。 「今夜は魚に活性がありますよ!」 と励まされ、彼から50メートルほど離れた所で、竿を出したのだが・・・・。 いつの間にか、夜空には無数の星が輝き、月の光りも輝きを増し、堤防は昼間のように青白く照らし出されていた。 時が静かに過ぎて行く。 電気浮子の黄色い灯りが、揺り篭に揺られるように黒い海に漂っている。 堤防に座ってジッとそれを見ていると、眠気に誘われウトウトし、寒さにハッと目覚め、そしてまた眠気に誘われ・・。 突然、無音モードにしていた携帯電話がポケットで奮えた。 耳にあてると、Oのデカ声が耳に飛び込んで来た。 様子を聞かれたので応えると、携帯電話をビリビリ震動させる笑い声が返って来た。 電話の向こうで、大口開けて笑うやつの顔が、目に見えるようだ。 「ガンバッテ、楽しみにしてっから」 が、行かなくて良かった良かった、に聞こえた。 納竿 午後6時〜午後7時半まで1度もアタリ無し。 納竿。 かくべーさんに、先に帰ると挨拶すると。 「来週もまた会いそうですね」 と応えが返って来た。確かに。 というより、これから毎週、かくべーさんと競うことになりそうだ。 彼の大タモは、心強い味方であるが。 尺メバルは小さ過ぎて、網の目からこぼれてしまうのではと、ちと心配になる。 これは単なる取り越し苦労ってやつかな?。 The End |