エキサイテイングな夜 ![]() 蒸し暑い夜だった 戦い済んで夜が明けて 風は殆ど吹いていない。 気温が高く、湿度も高く、ただ立っているだけで、汗が全身を這って行く。 闇の向こうで、投げ竿につけた鈴が時々鳴り響き、人声が。 アナゴでも釣っているのだろうか。 ノビタの周囲に人影無く、此所は全ての生き物が熟睡しているような深い静謐の中だ。 今夜は、黒鯛を少なくとも1枚はと、全身が火だるまのように燃えていた。 一昨日、ドラえもんさんと、Fisherさんの黒鯛釣り師の御両名に、釣り方を手ほどきしてもらい、後はその技術を試すだけ。 釣りを開始する前に、浮子下の棚を計った。 棚は、針の先に6号錘を付けて沈め、1号浮子が水面スレスレに浮く深さにした。 いつもは人に聞いた棚にするのだが、一生一度かもしれない大勝負を体感したかった。 結果からすると、これが効を奏したのではと思うのだが・・・。 初めの1匹 戦闘を開始したのは、午前0時半。 コマセを撒きながら、その時を待つ。 1度、浮子がピクピクと動いたが、それだけだった。 その後は、シーーンとした闇の中で、電気浮子がボーーッと水面を照らしているだけ。 午前1時、浮子がピクリと動いたような・・・・。 誘いを掛けてみようと、竿を僅かに引くと。 ガツ!と根掛かりのような感触。 「・・・・・・・・?」 リールを少し巻いた瞬間、いきなり竿が張り倒され、ジーッ、ジーッ、ジーッと緩めにしておいたドラッグの限界を越えて、道糸が沖に向かって走る。 あまりにも突然だった。 心臓がバタバタとはためく。 竿を起こし、しばらく道糸を出放しのままに。 カイズサイズだ 竿が、ガンガンガンと連打され。 また道糸が、ジーッ、ジーッとリールから出て行く。 やったり、とったりしながら、テキを岸に近ずけた。 岸から10メートルほど先で突然、水を裂き、バシャバシャバシャと水面に跳躍。 その音は、雷鳴の如く闇を裂いた。 「静かに、静かに」 と乞いながら、竿を倒してテキを水中に戻し。 またジワジワと寄せてくる。 抵抗が弱まるのを待ったが、抵抗は弱まらない。 機を見て。 水面に引き上げようとすると、バシャバシャバシャと、激しく抵抗を繰り返し。 ジーーッ、ジーーッ、ジーーッとリールから道糸が出ていく。 いつまでもこのままでは・・・と、ハリスの太さに全てを賭けた。 ドラッグを締め、竿先を海面に近ずけ、糸の弛みを取り、 「南無八幡、エーーイッ!」 と陸へハネ上げた。 バタッ、バタッ、バタッとテキが地上で暴れている、ホッ。 針を外そうとすると、針は上唇にチョコッと掛かっていただけ、危機一髪だった。 時合をものにしようと獲物をスカリに入れ、すぐ仕掛を海に返した。 汝の敵を愛せよ この後も時速2匹のペースでヒット!。 「ビーバ!(万歳)、ビーバ!、ビーバ!」 の連呼だ。 その都度、そのダイナミックで、エキサイテングで、スリリングな引きに、翻弄されながら陶酔し、昂揚し、虚脱し、ヘトヘトになる。 合わせのタイミングが遅れ、何度も針を呑まれ。 その度にハリスを切り、針を付け替え、浮子下の棚を調整し・・・・。 パラグァイ河に棲む黄金色の魚ドラドは、その闘争力を称え、ティーグレ・デ・リオ、”河の虎”と呼ぶそうな。 ならばこの黒鯛は、海のブラック・ジャガーと称してもよいのではないか。 その姿華麗。賢者で用心深く。不屈の闘争力。 頭の天辺から尾の先まで、みっちりニトログレセリンがつまっている。 猛烈な突進。右へ。左へ。沖へ。海を裂き。天を突き。 全身でたたかって、疲れをしらず。 果てること無き戦い。 その生を惜し気も無く燃焼する。 惚れたよ。お前に惚れた。 納竿 いつか空が薄っすらと青みがかり、次第に朝が輝きを増し、日が雲間から顔を出した。 その瞬間、あたたかい高まりが、澎湃とさしてきて全身にみなぎり、豊潤に昇華していく。 「生きていて良かった」 と言いたくなるような夜明だぜ。 コマセがなくなり午前4時半、納竿。 午前5時、釣った黒鯛を冷蔵庫に入れていると。 カミさんが寝ぼけ眼で2階から降りて来た。 「黒鯛釣れた?」それに応えると。 「1匹?、2匹?」問いは2匹で終わる。 カミさんには、2枚以上は現実離れしているのだ。 9枚釣れたと応えると。「ギョェーーーーー!」とカミさんがブッ飛んだ。 4年ほど前、32センチの黒鯛を1匹釣った時、ノビタは天狗になった。 今回は・・・・?。 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一気に飲む。 缶ビールが、これほど美味いと思ったことは無いのでは。 本日釣果 黒鯛 26〜29cm 9匹 The End。 |