イカ釣りの超名人に遭遇 雨上がりの出港 ベタ凪 停泊中の船の中で、雨が上がった後のうだるような暑気に、精神が伸びきっていたが。 船が海上を疾走すると、風に心地よく体を冷やされ、全身に活力が蘇った。 龍翔丸は一路、南東に向かう。 雲の裂け目から日没の光線が幾状にも放射され、海上は徐々に黄昏色を濃くして行く。 前方に虹の断片が 午後6時半に、船は目的地に着いた。 船の前方の白い雲をバッグに、虹の断片が弧を描く。 床に油を流したような光沢を発する真っ平らな海。 信じられないようなベタ凪だ。 風無し。 船が停止した途端に暑気に襲われ、汗が噴き出したので。 ポロシャツ1枚となる。 早速、サビキ仕掛で大アジ釣りを開始したが、船上、全くアタリ無し。 その漁場に見切りをつけて、次の漁場に向かった。 いきなりイカの猛襲 次の漁場で、再び釣りを開始。 アジ用サビキ針を、60号の錘を付けて、ドボーーン!と海へ。 仕掛が海底に落ちて行く途中で、ググッとブレーキ。 竿を持ち上げると、ググッ、ググッと手元に嬉しい便り。アタリだ。 アジの口は弱い、壊れ物注意を扱うように、ソロリ、ソロリ、と引き上げてくると。 ナント!水面に体を現したのは、イカだった。 すぐイカを取り込み、仕掛を海に返すと。 また落ちて行く途中でブレーキ。またイカだ。 船上は、一気に沸騰した。 船長も参加、すぐ3ハイ釣った所で携帯電話が鳴り、竿をロッドキーパーに置き、仕掛を水面直下に沈めたまま電話に出ていると、その竿がグングン海面に引っ張られている。 上げるとイカだ。 インカ帝国 と期待が高まったのだが・・・。 サビキ仕掛をイカ仕掛に交換した途端、ナイジェリア。 その騒ぎ、僅か10分ほどだった。 凄い達人 午後7時、船の集魚灯が煌煌と黒い海面を照らす。 飛魚が、何匹も海面を飛び交い。 体長80cmほどのシイラが、小魚の群れを右に、左に追い。 その小魚の群れの中を、イナダが疾しる。 空からカモメが降って来て、小魚を掠め取って行く。 まるで弱肉強食の悪魔の祭典だ。 釣りを開始して30分ほど経過した頃、ピタッとイカの便りが消えてしまった。 手持ち無沙汰になり、右隣りの手釣りの人を見ると。 なんと!イカをまだ釣り続けているではないですか。 まだいる。 俄かに真剣になって、闇雲に竿をしゃくるのだが。 闇夜に鉄砲、まるでテキの手応え無し。 隣りの達人は無表情な顔で、黙々とイカを釣り上げている。 大体、百戦錬磨の釣り師の顔は無表情だ、感情を決して顔に表さない。 周囲に釣れている事を悟られないよう、カモフラージュしているのだ。 ノビタのようなヘボは、すぐ感情を顔に表すので、釣れるとあっと言う間に周囲は、釣り人だらけとなり。損をしている。 ヘボか、名人かは、顔を見ればすぐ分かる。 ノビタと達人の違いは?。 と達人の仕掛を観察すると、いつの間にか彼の仕掛はプラズノから、糸巻き仕掛(浮子スッテ)に変っていた。 その糸巻き仕掛は、龍翔丸オリジナルのスルメイカ仕掛と同じ。 龍翔丸仕掛 やっと1ハイ掛けたが、後が続かない。 達人は釣り続ける。 戦いは勢である。 孫子曰く。 「激水の疾き、石を漂わすに至るは勢なり」 技だけでなく、そこには怒涛のような勢い、気合、念力、気迫などの目に見えない力が左様しているのか。 達人の栄を、少し分けてもらおうと、 「棚は何メートルですか?」 と聞いてみると、25メートルと教えてくれた。 ソレーーーッ!とばかりに、リール兼用棚センサーで海面下25メートルの所に仕掛を合わせ、1〜2回しゃくるとググッと来た。 達人が何メートルか?逆に聞いてきたので応えると、無表情にうなずいた。 同じ棚で2ハイ釣ったが、またアタリが消える。 隣りの達人を見ると、やはり切れ目無く、2ハイ、3ハイ掛け、時には4ハイ掛けしている。 「棚は何メートルですか?」 とまた聞くと、35メートルの返事。 その棚に合わせると、またググッ!。 その棚で1〜2ハイ追釣すると、また気配が消えてしまった。 「棚は何メートルですか?」 とまた聞くと、15メートルの返事。 達人は、正確にイカの浮遊する層を追跡しているのだ。 いつの間にか達人の足元には、100ハイほど入る樽が3つ並べてあり、それぞれにイカを分けて釣っている。 まさにイカキラーだ。イカの天敵だ。 最高速コンピュータと最低速コンピュータ イカの棚は、めまぐるしく変化している。 その変化を、達人の頭に内蔵されているコンピュータは、イカの位置を正確に捉へ、その指令に追随して、手が仕掛を誘導しているようだ。 ノビタのコンピュータは計算が追いつかず、ギブ・アップ!。 達人とノビタのコンピュータの性能の差は、達人はインテルPentium4プロセッサ4.0GHz、主メモリ4GBに対し、ノビタはインテルCeleronプロセッサ400MGHz、主メモリ250MBほどの違いがあるのかも。 達人の道具は江戸時代の手釣り仕掛。 ノビタの道具は最新兵器であるインターライン3メートルの竿に、PEライン4号、リールはコンピュータ内蔵の棚センサー付きだが。 釣れるイカの数は、達人が10ハイ上げる間に、ノビタは1.5ハイ。 まるで結果は、機関銃(達人の道具)と、火縄銃(ノビタの道具)の違いではないか。 達人の釣果 達人は、午後11時直前に釣りを中断し、釣ったイカを大容量のクーラーボックスに、樽から1ハイずつ数えながら移していた。 釣ったイカを全てクラーボックスに移し終ると、 「158ハイ」 と叫んだ。 ノビタにとっては、天文学的数字だ。 それから午後11時半までの間にノビタが4ハイ追釣し、達人は3ハイ追釣した。 ノビタは、最後の力を出し切って、必死にシャクリ続けた結果の追釣だが、達人はすでに余勢であり、時間つぶしだった。 達人がノビタのスカスカの樽の中を覗き、追釣したイカ3ハイを分けてくれた。 午後11時半、 「アデイオス!」 と龍翔丸は、戦場を後にした。 サバ4匹 午前0時、家に帰るとカミさんが、セミが切れ目無くミンミン鳴くように話しかけてくる。 「何で達人のように、釣らなかったの?」 「仕掛が違うんじゃないの?」 同じだよ、と応えると。 「やっぱりヘボなんだ!」 「これだけじゃ、近所に御すそ分けは無理ね」 「イカどのように料理する?」 「イカ刺しと、煮付けと、天日干しにしてスルメにしてと・・・」 「サバは〆サバにして、それから・・・・」 この間は12ハイで機嫌が悪かったが、今日はご機嫌麗しいようで。 カミさんの方から、 「ビールのつまみに、イカ刺し作る?」 ときたもんだ。 そして午前1時。 「あ〜あ眠い、早く寝るんだぞ!」 と言いながら、カミさんは2階へ退場。 その後は、嵐が去ったようにシーーンとなる。 スルメイカ29ハイ 肴はあぶった イカでいい 女は無口な ひとがいい・・・・・♪」 (八代亜紀「舟唄」) やっぱり女は・・・・・。 とつぶやきながら、イカの刺し身をつまみ、冷えた缶ビールを飲む。美味〜い!。 本日の釣果 スルメイカ 35〜40cm 29ハイ + 3ハイ(達人より頂く) サバ 34〜36cm 4匹 The End。 |