泳がせ釣り第5戦 風が吹いていた 海は荒れぎみ 空は鉛色の雲で覆われ。 風がバッカンの口から飛び出したビニール袋の端を、バタバタと震わしている。 海には無数の小波が湧き、波がザブン、ザブンと足元で吼えていた。 厚手のジャンパーをひっかけてきたが、肌寒かった。 隣りで竿を持っている若奥さんも、ジャンパーに付いているフードを頭から被り、寒そうに体を丸めて屈んでいた。 まるで港は冬景色だ。 カンパチのいない海 午前5時半。 いつもならカンパチが、餌にドドーン!と体当たりしてくる時刻である。 目ん玉を、風に揺れる磯竿2本の先に集中し、その時を待っていた。 10分、20分、30分・・・1時間。 時々、竿先が大きく上下する。 その度に、一瞬、心臓がパタパタとはためくのだが、竿先は数秒すると元に戻ってしまう。 餌のハナダイが、何かに驚き一瞬逃げ廻ったのだ。 ーカンパチなのだろうか?。 そして、何事も無く2時間経過。 いつか、絶望と、あきらめと、悲しみが降ってくる。 そして今日も、釣り人の哀歌が風に運ばれてきた。 「風 散々と この身に荒れて 思いどおりにならない夢を 失くしたりして 人はかよわい かよわいものですね♪」 (『愛燦燦』by 美空ひばり) 波騒ぐ海 来た! 午前7時半を廻っていた。 ーと! 左側の竿の先が、風向きと反対方向に曲がった。 竿尻には、風に飛ばされないよう海水を汲んだバケツを載せている。 ー前アタリ? 何度もこんなアタリがあったので、にわかには信用できない。 コンマ数秒ほどそのままに。 そして待ちに待った本アタリが。 ーキターーーー! ドドーーーン!と竿先が、下方に突っ込んで行った。 竿をつかむ。 風の中で、もたもたと竿尻に載せたバケツを除き、ライフラインのロープを付けた洗濯はさみを外し。 その間にも、竿はこれ以上は曲がらないほどに引っ張られ。 道糸が海を切り、もう1本の竿の仕掛けが垂れている方向に走った。 隣りの竿の仕掛けと絡んだら、収支がつかない。 焦った。 若い奥さんが 針掛かりしたカンパチとドタバタしていると。 20メートルほど離れた所にいた若い奥さんが、長い髪を風にたなびかせ、心配そうにこちらを見ている。 「髪のみだれに 手をやれば 赤い蹴出しが 風に舞う♪」 の風情ではないか。 この非常事態に隣りの奥さんを見ているのも、カンパチを何度も釣った余裕なのである。 奥さんが、どうしょう、どうしよと、身もだえしているような。 カンパチのたたき ならば期待に応えてと。 オットトトト・・・、オットトトト・・・、オットトトト・・・、と強風のなか、魚に翻弄され悪戦苦闘する釣り士をしていると。 とうとう奥さんは、いてもたってもいられないとタモを持って、こちらに向かって走り出そうとした。 ーこの辺でやめよう。 エーーィ!と堤防の上に魚を抜き上げた。 奥さんが、ホッとしたように微笑んでいる。 心配して頂いた奥さんに、ペコリとお辞儀を返した。 バッタ、バッタと堤防の上に転がったのは、27〜8センチほどの小ぶりなカンパチ。 見ると、針が外れている。 危機一髪だったのだ。ーホッ! 釣ったカンパチをスカリに入れようとしていると。 納竿 老夫婦が側に立ち、 「何匹釣れましたか」 と聞かれ、2時間でやっと1匹と応えたのだが・・・。 慌てて、ノビタの隣りで竿を出していた。 奥さんと話しをすると、週1回、栃木から釣りに来ると言っていた。 ノビタのように地元の人間ならボーズでもなんちゅうことはないが、栃木から高いガソリン代を払って釣りに来る人達は、それではすまないだろうと思ったが。 奥さんは、海を見るだけで楽しいと言う。 その顔は、決して強がっているのではなさそうだった。 午前9時半まで粘ったが、潮も動かなくなり期待薄すと、納竿。 本日釣果 カンパチ 28センチ 1匹 The END |
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