1997年秋 東海村某堤防                    

        1997年の秋・・

荒らしの海で
こんな日がありました。
日の出前、誰もいない海。
体がブッ飛びそうな風。
雲が飛び。しぶきが飛び。鳥が飛び。
帽子が飛び。鼻水が飛び。そして魚が飛んでいました。
怖いのと、魚が釣りたいのとで、頭の中は大洪水。
そして運命のダダダダーン。

夜明け前の堤防を行く
話は1時間ほどさかのぼります。
夜明け前の堤防を、一人で先端に向かって歩いていました。
アジさんも来るはずだったので、何度も後ろを振り返り、何度も先を見ましたが。
一寸先も、一寸後も闇の世界です。

北風がピューピュー吹き、ドドーン、ドドーンと海がほえていました。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)が、いまにも出そうな暗闇です。何度も立ち止まり、帰ろうと思いました。
でも今日は巨人の星の星飛馬で行こうと決心したのです。

巨人の星の歌
「思いこんだら 試練の道を 
   ゆくが〜 男のど根性
    行〜け 行〜け ノビタ〜 ドンと行け〜 」
(馬鹿は死ななきゃ直らない)
先端から50メートルほど手前に来た時には、周囲が白んでいました。
そこでノビタが見たものは。

堤防の上を波が洗っている光景です。
思わずオシッコをチビリそうになりました。
とうぜんですが、アジさんも誰もいません。
今思うと、よくそんな所で釣りをやる気になったのか信じられません。

そして対決
後ろからの大波に呑まれる恐怖にオシッコをチビリながら、ルアー(魚の形をした擬似餌)を投げていました。
持ってきたルアーは海底に沈んでいるワイヤーに、何度も引っ掛かり、残るは最後の1個です。

最後のルアーを投げました。
ルアーは風に乗りピューと100メートルほど飛んで、水面にポチャン。
そしてオイショ、オイショとルアーを引いていた時です。
いきなりドドーーンと、ダンプカーを引っ掛けたような衝撃を全身で受けたのです。
「ナンダ、ナンダ、ナンダ?」
その直後、未確認物体は沖に向かって、モーレツに遁走(とんそう)したのです。
ドラッグ(リールのブレーキ)が、キィーキィー悲鳴を上げています。
ドラッグをゆるめたり、締めたりしながらその引きにジッと耐え。
「ネバーギブアップ!」
と声に出ない叫びを上げ、大胆にかつ繊細(せんさい)に、ヤッタリ、トッタリを繰り返しました。この闘いは1時間ほどです。
とうとう未確認物体は足元まで寄り。
その全身を水面に現しました。

「アンビリバボー!」
なんと80cmはあるヒラマサでした。
(思い出の魚も、時がたつうちに成長します、チャン、チャン)
麻雀(マージャン)で言ったら、大三元(だいさんげん)
ドラドラドラの跳ね満リーチです。

舞い上がったのも一瞬でした。
すぐノビタのおかれている立場に気がつきました。
「オーマイゴー!」
タモがありません。アジさんもいません。
アジさんを、この時ほどうらんだ事はありません。

堤防の上から水面まで、7メートルはあります。
やつは、道糸の限界をはるかに超える大物です。
学校や会社で学んだ知識を総動員しても、何の役にもたちません。
高橋哲也だって、小島怜子だって、大塚キャスターだって、ドラえもんだって、(敬称略、超有名な釣り師たち)この難局を乗り切ることは出来なかったでしょう。

竿が折れないように道糸を掴み、思いっきり引きました。
プツンと糸が切れ、魚はゆうゆうとグッドバイしたのです。
切れた糸は、空中でブルブル震えていました。
ノビタも、くやしいのと、悲しいのと、寒いのとで、ブルブル震えていました。

ルアーは、もうありません。
もう終わりです。精も根もつきました。
帰るしかありません。
海鳥(うみどり)が、
「人間てホント馬鹿ね〜」
と後ろでギャギャギャと笑っていました。
The END

次回は広島であった嘘のようなホントのお話しです。


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